海の近くに住みたい
公開日時: 不明
朝3時45分ぐらゐから5分おきに携帯のアラームが鳴るやうに設定しておいた。種子島からわざわざ持つて来た目覚まし時計も4時に鳴るやうにしてある。縄文杉を見に行かねばならんのだ。遅くとも7時までには登り始めろと登山口の看板に書いてあつた。一般人の平均で休憩含めず9時間から10時間掛かると色んな本に書いてある。体力の無い俺はそれ以上に掛かるだらうから、早めに登り始めた方が良い。荒川登山口までバイクで1時間掛かるので、5時に出れば6時に着くことになる。6時から登れば昼までには着けるだらうか。帰りは疲労で脚が動かないかもしれないが、何とか夜になる前には帰れるだらう。5時に家を出ることに決めた。朝飯は食つて行く。例へウンコに苦しめられることになつても、奥深い山の中でエネルギー切れで動けなくなるよりはマシだらう。といふわけで、目覚ましを4時付近にセットして23時頃寝た。寝るのが遅い。昨日の日記を書いてゐたら遅くなつてしまつたのだ。この時点で死臭が漂つてゐた。絶対起きれん気がした。
奇跡的に目が覚めたが、疲労が激しくて動けない。何度も何度も執拗に携帯のアラームが鳴るし、最後には目覚まし時計も激しく鳴るので観念して起きた。とにかく今日行かねばならんのだ。そのために昨日は無駄に飯を食つたりして準備してゐる。縄文杉登山が一番体力を使ふに違ひ無いから、先に他のところに行くと体力が尽きて縄文杉登山が困難になる。一番最初に縄文杉に行かねば体力の無い俺には厳しい。辿り着けずに途中で倒れて動けなくなつたりしたら非常に困る。だから本当は昨日のヤクスギランドも行かない方が良かつたのだが、折角来たからと思つて一寸無理してみた。準備運動には良いかもしれないが、それで体力を使ひ過ぎてしまつたら危ない。昨日のヤクスギランドがどう影響するか、行つてみないと分からない。起きてからパンやチーズを食つた。結構多めに食つた。昨日の晩も無理して多めに食つてゐる。これはかなり危ない。どこかで猛烈な便意に襲はれるに違ひ無い。もう家でウンコを流し殺してから出発する時間の余裕は無い。5時を過ぎてしまつた。女の客は1泊だと言つてゐたから、俺が帰つて来た時にはもうゐないだらう。漸く1人になれる。
水筒に昨日Aコープで買つたお茶を入れ、種子島で買つておいたウイダーinゼリーを4つと、中に黒糖が入つた飴と塩やクエン酸の入つた飴と、食ひ切れなかつたチョコパンをリュックに入れた。登山用のリュックではない。PC用のリュックだ。パソコンショップや家電量販店でしか買へない種類のリュックだ。ケーブルを出すための穴とか、明らかにオーディオプレーヤーを収納する場所等が付いてゐる。山をナメるなと言はれても困る。これでも俺にしては過剰な重装備だ。本当は手ぶらで行きたいところだ。だが不安なので色々持つて行く。登山だけのために専用のリュックなんか買ひたくない。これで十分だらう。たぶん。本等を読むとかなりの重装備で行かねばならんらしい。登山靴を履き、着る物も登山用の物で、杖も持つ。そんな大袈裟なことをしなくても良ささうに思へるのだが。去年屋久島に来た時、ヤクスギランドや白谷雲水峡を少し歩いたが、そんな装備が必要な気はしなかつた。まあ少ししか入つてないから奥の方がどうなつてゐるのかは分からんのだが。周囲の観光客が異様な重装備で張り切つてゐる中で、叔父も叔母も親も祖母もみんな普段家にゐる時と変はらない格好でウロウロしてゐた。親なんか腐つた草履みたいなので歩いてゐた。途中で草履が大破して大変だつた。さういふ家系に生まれて来た俺だから張り切つて重装備で行く気にはなれない。といふか、それ以上荷物を増やしたら荷物の重さだけで死ぬわ。
外に出たら雨が降つてゐた。小雨だが鬱陶しい。カッパを着て行かねばならんのか。2階の電気が煌々と点いてゐた。ヤンキーのくせに暗いのが怖いんだな。5時過ぎてもまだ真つ暗。何にも見えない。街灯も無い。県道に出て安房方面へ向かひ始めた。雨がどんどんどんどん激しくなつて行く。といふか、これはヤバいぞ。滝のやうだ。5m先が見えない。いや、2m先も見えない。といふか目を開けられない。顔に当たる雨粒が痛過ぎる。眼鏡を掛けてゐるのに眼球に雨粒が直撃する。激し過ぎて息も吸へない。カッパの隙間から水が入つて中まで濡れる。あり得ん。こんな雨ではスピードも出せん。これはかなりヤバい。麓でこれだけ降つてゐたら山の上はもつと激しいんぢやないのか?今日はやめるべきなのか?これではまづ登山口までも辿り着けない。いや、その前に安房までも無理だし、民宿から3kmも無い空港までも不可能に思へる。何も見えないし痛いし、道路がどこなのかも分からない。危な過ぎる。しかし折角早起きできて飯も食つて出て来たのに今さら帰れるわけが無いだらう。
無理してしばらく走り続けた。安房の辺りではだいぶ雨が弱まつて空が少し明るくなつて来てゐた。バス停に重装備の登山客風の団体が大量にゐた。この時間だとみんな縄文杉へ行くんだらうと思ふ。もしかして恐ろしい人数が山にゐるんぢやないだらうな。安房から山へ。道を曲がつてすぐの登山用品店の前にある自販機で500mlペットボトルのアクエリアスを買つた。0.8Lの水筒に茶を入れて持つて来てゐるが、足りないかもしれない。水を汲んでも次の水場まで0.8Lで足りないかもしれない。空のペットボトルを使へばもつと水分を確保できる。さう思つてアクエリアスを買つた。小雨になつたし少しづつ明るくなつて来た。帰らなくて良かつた。途中で朝焼けの山を撮影してみたりした。
途中でバスに追ひ抜かれた。満員だ。凄い団体だな。既に山に到着してゐる奴らも多いだらう。これから来る奴も多いだらう。恐ろしい人数が細い登山道に延々と続いてゐるやうな気がして来た。自分のペースで登るといふのが不可能な気がする。後ろから続々来るのに道が狭いから押されるやうに歩くしかないとか、逆に早く行きたいのに前が詰まつて進めないとか、大いにあり得る。道路の上り坂がキツい。急激に上つて行くから勾配がキツい。4stエンジンの原付ではパワーが足りなくて速度が出ない。時間が掛かるな。何台かレンタカーが追ひ抜いて行つた。苦労してヤクスギランド手前の荒川三叉路に到達。そこから隣の山に移つて下つて行く。道が細いし濡れてゐるので危ない。雨のせゐで予定よりもだいぶ遅くなつた。ダムの辺りから急に路上駐車が増え始めた。そこで何と去年乗つたレンタカーを発見した。叔父達が乗つてゐた車は昨日見たし自分が運転した車も見れた。両方とも縄文杉へ行つたんだな。そのままダムの脇を抜けてトンネルを抜けて登山口まで普通に行けると思つてゐたのだが、ここで予想外の渋滞。何故か登山口から戻つて来る車が多い。登山口の駐車場が満車で路上駐車するために戻つて来てゐるのだらうか。それとも民宿の人が客を送迎したりしてゐるのだらうか。道が恐ろしく狭いのにこちら側からバス、向うから車が何台か。身動きが取れん。詰まつて渋滞して何とかすれ違つてまた渋滞といふのを3回ほど繰り返し、漸く辿り着いた。これは荒川登山口まで車で行かない方が良いな。素直にバスで行く方が楽だ。
バイクを停め、まづは便所へ。それにしても凄い人数だ。みんなマニュアル通り一生懸命準備運動をしてゐる。みんな激しい重装備だが、何故か爺さんが1人だけ軽装だつた。連れの人にそんな格好しなくても大丈夫だし水もそんなに持たんでもたぶん大丈夫だぞとか言つてゐた。俺より山をナメてゐる人がゐて安心した。登山口に登山届を出すところがある。登山届には登山開始日時や下山予定日時や登山ルートなどを書く。予定を大幅に過ぎても下山の連絡が無い時は遭難したといふことだから助けてくださいと事前に頼むためのものだ。下山したら出したところに電話なり何なり連絡しないといけない。万一遭難した場合には捜索に掛かつた費用は全て自腹だ。それが貧しい俺には怖い。死ねるほどの大金を払つて助けて貰ふぐらゐなら自力で下山したいと思ふ。しかし登山道から離れたら自力で戻れる可能性はかなり低いと思ふ。とは言へやはり捜索費を払へる気もしない。まあたぶんこれだけ人がゐれば遭難することも無いだらうし、登山届は出さずに行くことにした。
6時半頃に準備運動もせずいきなり歩き出す。トロッコの線路が7kmか8kmも延々と続いてゐるらしい。登山口の標高は約600m。縄文杉は1300m。トロッコの線路の部分はほとんど高低差が無く、延々と平地を歩き続けるやうなものだ。本によると長距離の線路で300mほど上がるらしい。線路が終つてからの残り少ない距離で急激に400mほど登らねばならんらしい。後半はキツいだらう。
登山口から入つてすぐ左に曲がり、橋を渡る。渡つてすぐにトンネルがあり、中に入ると自動でライトが点く。良い雰囲気だ。線路、橋、トンネルと珍しい風景が続き心躍る。しかし異様に歩きにくい。枕木の間隔が一定ではないので枕木の上だけを歩くと却つて疲れる。砂利のところだけを歩くのもなかなか難しいし疲労が激しいだらうと思ふ。何も考へず適当に歩くと枕木と砂利の段差が激しい場所があつたりして厳しい。こんなところでいきなり足を挫いたら終了だ。レールの上は細いし滑りさうだからあり得ない。
それにしても、恐ろしい崖つぷちに無理矢理線路を敷いた感じで怖い。崩れるんぢやないかと不安になる。ところどころに橋があるのだが、手すり等が無い。谷の上にただ線路があるだけ。さすがに枕木だけだと危ないからさういふところには板が置いてあるが、滑りさうで怖い。ここでコケたら這ひ上がれない。遭難確定だ。遭難する奴はかういふ崖に落ちて帰れなくなるパターンが多いんだらうな。断じて怖くはないのだが、どう表現して良いのか分からんので敢へて高所恐怖症といふ言葉を使つてあげる。ハラワタがモワモワして脚に力が入らん。
最初は線路とか橋とかトンネルとかが珍しくて良かつたのだが、いつまでも同じ景色が続き、アホみたいに線路が続くので早速飽き始めてゐた。登山客も多い。エコツアーの団体がかなり多い。5000円か1万円か知らんがガイドに金を払つてツアーに参加すると色々と薀蓄を聞きながら楽しむことができる。この杉はどうのかうのとか、あの山がどうのかうのとか、ここら辺の歴史とか色々。1人で黙々と登るよりは色々聞きながら登る方が良いのかもしれない。でも他のツアー客にペースを合はせないといけないのが嫌だ。それにそこら中にツアーの団体がゐるので金を払はなくて薀蓄を盗み聞きできる。ツアーの団体が止まつてゐるところには何か見るべき物があるといふことだ。さういふところで一緒に止まつて写真を撮つたりしながら解説を聞いたりする。道が狭いので渋滞しやすい。後ろから猛烈な速度で歩いて来る人には道を譲つたり、逆に遅い人を追ひ抜いたり、さういふことができる場所とできない場所がある。少し広い場所があつたら後ろの人に道を譲つたり前の人に譲つて貰つたりする。早朝は俺を苦しめるためだけに無駄に豪雨だつたが今ではすつかり晴れて良い天気だ。もしかしたら帰るまでカッパが要らないかもしれない。
最初のチェックポイントとして小杉谷小中学校跡がある。登山口から2.8kmぐらゐだつただらうか。そこにすらなかなか辿り着かん。40分ぐらゐ崖つぷちの線路を歩いて右に曲がり、大きい橋を渡る。小杉谷橋だ。ここを渡れば小中学校跡。すげえ疲れた。まだ距離的にも4分の1程度か。先は長い。往復ではまだ8分の1だ。先が思ひやられる。小中学校跡地は校庭の跡みたいな広場があるだけでもう建物も無い。俺が生まれる前に閉校になつてゐる。それにしても、こんな山奥に学校があつたといふことはこの近辺に人が住んでゐたといふことだらうが、どこに人が住むスペースがあるんだらう。線路を敷くだけで精一杯な崖つぷちに人は住めないだらう。森の中に住んでゐたんだらうか。住居の跡らしき物も全く見当たらない。学校跡地の奥に集落の痕跡でもあるんだらうか。明治か大正か昭和か知らんが、ずいぶん昔にここら辺は杉伐採の拠点だつたらしい。杉を切つてトロッコで運んでゐたんだらう。今でも時々トロッコが走つてゐるらしい。運が良ければ走つてゐるトロッコに遭遇することもある。思ふのだが、トロッコが走れる環境ならばトロッコで登山客を線路の終端まで運んでくれれば良いと思ふ。片道2000円でもみんな払ふだらうと思ふ。道が狭いからトロッコが頻繁に走るとなると徒歩での通行は不可能になる。強制的に往復4000円払はせれば良い。人件費も電気代も十分取れるだらうし、その程度の金ならみんな払ふだらう。トロッコに乗せてください。既に歩き疲れて弱音モード。
エコツアーの団体はほとんど学校で休憩して行く。そんなに頻繁に休憩しないとヤバいのか?学校跡地のすぐ隣に休憩小屋があるのだが、満員で入る隙間も無いので休まず歩き続けることにした。学校跡地からは橋のところと同じやうにレールの間に板が敷いてあるので段差が無くて歩きやすい。学校まではかなりキツかつたが、ここからは多少楽になる。しかし今まで以上に同じ景色が続く。延々と森の中の線路をひたすら歩く。たまに橋があるが、どの橋も同じに見える。ここら辺は切り株更新が多い。切り株の上に新しい木が生えてゐる。地面より切り株の上の方が日光を受けやすく有利だからそこに生長しやすい。同じやうに倒木の上にも育ちやすい。切り株や倒木の上に生えた木はそのまま生長し、下のは腐つて無くなつて空洞になつたりする。だから複雑な形をした木が多い。いつの時代の切り株なんだらうか。秀吉の時代に屋久杉の伐採が盛んだつたらしいが、そんな昔に生えたやつなら今はもう大木になつてゐるはず。小杉谷を拠点にしてやつてゐた最近の伐採の跡なんだらうか。楠川分れといふ分岐点があり、ここから山へ入つて行くと白谷雲水峡へ出るらしい。そんな奥地まで入つて来たんだな。雲水峡は宮之浦から山に入つて行く。安房方面から来てそちらへ抜けられるほど山に入つて来たといふことだ。
どこまで行けば良いですか。途中に便所があつた。バクテリアとかで分解するバイオ便所。そこで一休み。何故か便意が来ない。昨晩から鬼のやうに食つてゐるし、今朝も飯を食つて腸が刺激されたはず。なのに全く便意が来ない。この時間になつても来ないといふことはもう来ないのかもしれない。小杉谷小屋では人が多過ぎて休憩できなかつたが、この便所は人が少ないから休憩できる。汗が異様に出る。もう背中も腹も頭も体中がビショ濡れだ。こんなに水分を出したら危ないのではないかと思ふ。まだ麓で買つた500mlのアクエリアスが半分も残つてゐる。全然水分を補給してゐない。でも何故か渇かない。ウンコが出ないことと何か関係があるのかもしれない。
エコツアーのガイドの人はみんなトランシーバーを持つてゐる。仲間と連絡を取り合つてゐるやうだ。どこら辺に何人ゐるだとか、どのコースへ行くだとか。ガイドの人達がツアーガイドの合間の休憩中に話したりしてゐるのを聞いたが、どうも3日ほど前にどこかで遭難した人がゐてまだ発見されてゐないやうだ。ツアーをやりながら捜索活動もしてゐるのかもしれない。
ほんの数分休憩して歩き出す。どこまで行つても同じ景色。三代杉があつたぐらゐで特に何も無い。延々と同じ景色。近くにゐたツアーのガイドがこの先でショートカットすると言つてゐた。線路から離れて崖を登ると距離を短縮できるらしい。そこもかなりキツい道だが、そこで音を上げてゐたら後半の登山道は無理だと言つてゐるのを聞いた。俺もついて行かうかなと思つたが、こんなところで無駄に体力を消耗したら後がキツいかもしれないし、コケてリタイヤなんてことになつたら最悪だ。大体かういふのは楽な道で遠回りした方が良いことが多い。といふわけで、休憩してゐるエコツアーの団体の横を通り抜けて線路を延々と歩く。近道をしなかつたおかげで鹿に遭遇できた。近くで撮影したりした。川を何度も渡るので橋の上から別の橋が見えたりもする。ゆつくり歩けば良いさ。
まだですか。どこまで続きますか。同じ景色がいつまでもいつまでもいつまでも続く。休憩してからショートカットして来た団体が丁度俺の横の崖を登つて来た。確かに時間は短縮できるらしい。客は疲れたとか喚いてゐる。よくこんなところを登つて来たな。後半の登山道はここよりキツいと言つてゐた。大丈夫だらうか。不安になつて来た。でもここまで来たら最後まで行くしかない。ところで線路はどこまで続きますか。今何km地点ですか。
仁王杉といふのがあつた。立つてゐるやつと既に倒れてゐるやつがある。倒れてゐる杉は崖の下にあつてよく見えん。デカい杉だが、もうかういふのも見慣れて来て特に感動も無い。汗の量が凄い。歩いてゐるとあまり感じないが相当大量に噴き出してゐる。服が完全に濡れ切つてゐる。立ち止まると汗が出て来るのがよく分かる。それほどの発汗量にも関はらずまだアクエリアスが無くなつてゐない。時々飴を舐めたりする。疲れた。とにかく疲れた。延々と同じ風景がいつまでもいつまでも続く。トロッコに乗せてください。長えよ。とにかく長い。脚へのダメージは意外と大したことない。ただ平地を延々歩いてゐるだけだからな。往復20kmを無事に歩けるかどうかは分からんが、今のところ特に問題は無ささうだ。疲労はあるが、足が痛くて歩けんといふやうなことにはならない。何km歩いたのか知らんがまだたぶん5kmか6km程度だから、この程度ではどうもなくて当たり前。
アホみたいに歩き続けた。写真を見れば分かると思ふが、延々と同じ風景ばかり。かなり精神的につらい。たまには違ふ風景があつても良いだらうにいつまでもいつまでも同じ。橋のデザインも全く同じ。どこまで行つても同じ。何km歩いたのかも分からん。あとどれくらゐで大株歩道入口ですか。早く線路終れ。その後の山道がキツいとしても早くこの線路地獄が終つて欲しい。もう飽きた。帰りも同じ道を歩くのかと思ふとゾッとする。7月に可児で20kmの散歩をしたがあの時の方が色んな風景が見れただけ精神的に楽だつた。漸くアクエリアスも全部飲み干した。リュックに空ボトルを入れるのも面倒で手に持つて歩く。リュックがクソ重い。肩に猛烈な負担が掛かる。もしかしたら足腰よりも肩の方がダメージが大きいかもしれない。張り切つてこんなに荷物持つて来ない方が良かつたな。でも周囲の客はもつと激しい。他の登山客のリュックには何が入つてるんだらう。ここら辺で左脚の関節が痛み始めた。骨盤と大腿骨の関節だらうか。関節ではなく筋かもしれん。左側が痛い。左に負担が掛かる歩き方をしてゐるんだらうか。
長時間歩き続け、急に雰囲気が変はつた。何だか人が大勢集まつてゐるやうな気がする。左へカーブし、橋を渡つた先に大量の人がゐた。そして便所があつた。ここが線路の終端の大株歩道入口か。7km以上歩いたことになる。あと3kmぐらゐか。時計を見たら8時45分。2時間と少しでここまで来た。まあ距離的にそんなものか。しかしあと3kmしか無いのに常人で片道4時間半〜5時間といふのはをかしくないか?この先まともに歩けんほどキツい道なのか?体力の無い俺がここまで2時間ぐらゐで来れたのに。もしかして往復9時間とか10時間といふのは大嘘なんぢやないだらうな。張り切つて朝早く起きたのがバカみたいぢやないか。いや、まだここから大変なんだらう。それにしても凄い人だ。便所の階段に行列ができてゐる。最後尾の人は間に合はんのぢやないか?俺は何故か全く便意が来ないので余裕だが、一応尿を流しておかうと思ひ、行列に並んだ。そしたら便所は男女別になつてゐて列は女だけだと前の人が教へてくれた。狭い隙間を通つて男用便所に行き、尿を屠つた。橋を渡つたところに水場があつたのでアクエリアスのペットボトルに汲んでガブ飲みし、満タンにしておいた。たぶんこれで帰りまで持つだらう。飴を食ひ、ウイダーを飲み、補給は万全のはず。
橋は便所に通じてゐるだけだつた。橋を渡る前のところに大株歩道の入り口があつたらしい。あまりにも整備されてゐない道なので気付かなかつた。こんな道を登るのか。石が積まれてゐるのか自然に積み重なつてゐるのかよく分からん道を急激に登る。手も使はないと登れない場所もあるし、恐ろしく狭くて滑つたら落ちて大怪我しさうな場所も多い。大変だ。人も異様に多い。狭い場所が多いのでみんな同じペースで歩くしかない。凄い道だな。
少し行つたところに翁杉といふのがあつた。みんな記念撮影してゐる。これはかなりデカい。紀元杉並の大きさだ。苔が激しく付いてゐるので木なのか岩なのか分からん感じだ。周囲のスペースが狭いのでどんなに頑張つても木全体をフレームに収めることができない。屋久杉は全部さうだ。
さらに歩く。翁杉から少し行つたところにウィルソン株がある。ウィルソンが切つたのではなく、ウィルソンが発見した切り株だ。切つた人が第一発見者のはずだが誰だか分からないのでウィルソンの名がついてゐる。秀吉の時代に切られたらしいが定かではない。民宿に置いてあつた屋久島便利MAPといふパンフレットには天正14年に豊臣秀吉が島津氏に命じて、京都東山に建立する方広寺大仏殿の用材として伐採させた切株の一つといわれています。
と書かれてゐるが諸説あるらしい。屋久島ブック'07-'08といふ本には江戸時代の切り株跡。広い内部にはほこらがまつられ、湧き水もある。体力に自信がない人は、ここでUターンしてもよい
と書いてある。江戸なのか秀吉の時代なのかも分からない。それよりも、ここでUターンは絶対あり得ないだらう。ここまで来たら脚を骨折してゐても縄文杉まで行くべきだらう。切り株の中は空洞になつてゐる。10畳ほどの広さがある。直径は5mぐらゐあるんだらうか。かなりデカい。上を見上げると穴が開いてゐて空が見える。まるで巨大な落とし穴に落ちたみたいだ。こんな巨大な木を切つて運ぶのが凄いよな。どこまで運んだんだらう。楠川分れから白谷雲水峡の方へ行つて宮之浦へ抜けたんだらうか。荒川の方から安房へ運んだんだらうか。いづれにしても恐ろしい距離だ。その頃はまともな登山道も無かつただらうし、当然トロッコも無い。どうやつて運んだのかも謎だが、どうやつてここまで入り込んで来たのかも謎だ。麓の町から徒歩で来ると確実に1日以上掛かるだらう。山で迷はずにこんな深いところまで来て伐採するなんて想像も付かん。ここで切り倒して細かく切つて運んだんだらうが、恐ろしい労力だ。こんな山奥に来て切り株を発見したウィルソンも凄い。外人が知らない土地の山を探索して迷はないのが凄い。どうやつてこんなところまで来たんだらう。
ガイドの人同士が顔を合はせるとすぐに遭難者の話になる。遭難者から携帯電話で2回どこかに連絡が来たらしいが、2回とも違ふ場所からだつたとか。動き回つてゐたら見つかるはずが無いと言つてゐた。最初の電話で動くなと言はなかつたのが拙かつたとか話してゐた。でも携帯電話が通じる場所は限られてゐるからそこら辺を重点的に捜せば良い。登山ルートが分かれば遭難した場所も大体想像できるんだけどな、とか話してゐた。もう3日目らしい。さすがにそんなに長時間だと命に関はるだらう。道が分かりにくいところで迷つたんだらうか。崖に滑り落ちて戻れなくなつたんだらうか。自分も注意しないと危ない。人が多いから迷ふことはまづ無いが、フラついて崖から滑り落ちると遭難する。
ウィルソン株まで来れば縄文杉まであと少しといふイメージがあつた。だがここからが異様に長い。しかもますます激しく登つて行く。ウィルソン株の先には大王杉がある。この辺りから世界自然遺産地域に入る。ところどころ木で道が作られてゐるが、山自体の勾配がここから先は特にキツいので木の階段もイチイチつらい。階段ではなく梯子みたいな感じで手を使ひたくなるほどの場所もある。1段の高さが異様に高いところもあつて、脚がパンパンだ。脚が酸素不足みたいになつてゐる。脚が上がらない。心臓の鼓動も3倍速だ。さすがに疲労も激し過ぎる。しかしこの木で作られた登山道も凄いよな。これを作るのにどれだけ苦労するんだらう。材料を車で持つて来ることはできない。線路があるところはトロッコで持つて来るんだらうが、その先は全て人力だ。厚さが20cmもある巨大な木のブロックを何千個も運んで来てボルトで締める。ボルトの重量も相当な物だらう。凄まじい重労働だ。
キツい階段を登り、キツい山道を登り、アホみたいに歩き続けて大王杉に到達した。写真の撮影時刻を見るとウイルソン株から40分ほど歩いたやうだ。縄文杉が発見されるまではこの大王杉が最大の屋久杉だつたらしい。といふことは縄文杉が発見される前はここまで大勢見に来てゐたんだらうか。ここまで来ておきながら縄文杉の存在に誰も気付かなかつたのか?といふことはここからまだ結構遠いのか?もうずいぶん歩いたよな。そろそろ縄文杉に到達しても良い気がするよ。
大王杉から少し行くと夫婦杉がある。2本の杉があつて片方の枝が横に伸びて手を繋いでゐるやうに見えるから夫婦杉と言ふらしい。狭いところでみんな撮影するから渋滞ができる。エコツアーのガイドが杉を背景に客を撮影したりする。団体が去つてから俺も杉を撮影する。疲れた。縄文杉はまだですか。ここから帰らねばならんのか。キツいな。さすがに10kmは遠過ぎる。平地の10kmでもキツいのにこんな山の中を10kmも歩くのはキツ過ぎる。
縄文杉はまだか。一体どれだけ歩いただらう。もうそろそろ辿り着いても良ささうなものだ。ウィルソン株から1時間以上歩いた。大王杉と夫婦杉も通過した。もう他には何も無いはずだ。何か巨大な杉がある。枝が折れて落ちてるのか本体が壊れてるのかよく分からん。民宿の壁に貼つてあつたポスターには何年か前に倒れた木がここらにあるみたいなことが書いてあつたやうな気がする。どうでもいいが早く縄文杉を見て帰りたい。
夫婦杉から20分以上歩いて、何かが終る気配を感じた。巨大な建造物がある。階段の上に何かスペースがある。本で見たぞ。ここが目的地だ。奥を見ると巨木が隙間から見える。あれが縄文杉か。後ろにゐた若い女が巨大な声でデケェー!!とか下品に叫んだ。確かにデカい。階段を登つてじつくり見る。木で作られたスペースから出てはいけない。根を踏んだりしないやうにといふことだらうか。だから当然縄文杉に触れることはできない。しかも見学場所から木まで結構距離がある。根が張つてゐる範囲を保護してゐるんだらう。それだけ離れてゐても木がデカ過ぎて写真に収まり切らない。何かで読んだ記憶があるのだが、縄文杉のところは携帯が通じるらしい。山の上の方だけ電波が届くらしいのだ。本当かどうか確かめるべくポケットから携帯電話を取り出して開いてみた。圏外。無駄。折角なので携帯のカメラでも撮影しておいた。エコツアーのガイドがオカリナでもののけ姫の曲を吹いてゐた。後から後から続々と登山客が登つて来る。恐ろしい人数だ。見た人は早く帰れみたいな雰囲気が漂つてゐる。折角長時間掛けて苦労して来たんだからここで長時間休んで行きたいと誰もが思ふが、それが無理なのは誰の目にも明らかだ。人が多過ぎる。次から次へとアホみたいに来る。しかし帰るのも困難だ。同じ道を歩かねばならんのに道が狭い。凄い渋滞してゐるのが見える。激しく鬱陶しい。適当に写真を撮りながら休憩してゐたら、俺と同じやうに1人で来てゐた人に写真を撮つてくれと頼まれた。縄文杉をバックに自分を撮影して欲しいらしい。俺は自分が写真に写るのが嫌いなので人に頼んで写してもらふ感覚がよく分からないのだが、自分が来た証明といふか記念として杉と一緒に写つておきたいと思ふ人が多いのかもしれない。団体客はガイドの人に撮つて貰つてゐた。頼まれたので快く撮つてやつたが上手く写つたかどうかは知らない。
縄文杉に着いた時点で時計を見たら10時35分ぐらゐだつた。早過ぎる。張り切つて早朝に出て来たのがアホみたいぢやないか。本当に往復10時間も掛かるのか?元々異常なまでに体力が無くてさらに運動不足でまともに動けないほどに衰へてゐる俺でも片道4時間で登つて来れた。10時間とか大嘘ぢやないか。騙された。帰りは下りだからもつと早いだらう。いや、疲労で遅くなるかもしれんな。線路までの山道は重力に任せて駆け下りるだけだから早いだらううが、線路は疲労を抱へて歩くと想像以上に時間が掛かるかもしれない。それでも10時間は掛からん。9時間も掛からんと思ふ。奥の山に猛烈に霧が出て来た。いや、この高さだと霧ではなく雲なのかもしれない。雨が降るかもしれんな。
縄文杉のところに10分ほどしかゐなかつた。恐らくもう一生来ることは無いのだからもう少し長くゐても良かつたかもしれない。でも下山することにした。下りは重力に任せて駆け下りるだけ。脚に力が入らなくても関係無い。あまりスピードが出過ぎると危ないから適度に吸収しつつ下りる。滑つたら危ないと思ふ人も多いだらうが、滑つた時はその勢ひを利用してさらに余分に進めば良い。簡単にはコケないし、着地場所を先読みしておけば大丈夫だ。勢ひが付き過ぎると制御不能になつて危ないからそれだけ気を付ければ良い。ただし、踏ん張るつもりで着地したところで滑ると死ぬ。登山口まで10kmもあるのであまり危険は冒せないが、自分が大丈夫だと思へる範囲内で駆け下りるのが良い。可児の鳩吹山で大体の感覚は分かつてゐる。巨大な屋久杉等の見所は帰りも見て行くが、何も無い場所は立ち止まらずに進めば良い。しかし、さう上手くは行かない。人が多過ぎて走れない。それどころかまともに歩けない。登山には上り優先といふルールがあるらしく、長い長い行列が全部通り抜けるまで少し広いところで避けて待つてゐないといけない。アホか。早く行けボケ。人は次から次へと登つて来る。たまに切れ目を見つけて猛烈に駆け下りるのだが、すぐにまた来るので避けて待たねばならん。延々と待ち続けるのが苦痛で仕方が無い。一体何百人来てゐるんだらう。もしかして1000人以上ゐるんぢやないだらうな。恐ろしく長い列を通してやつて、少しできた隙間を縫つて目の前の階段を駆け下りようとしたらツアーのガイドのオバチャンに上り優先だから待てと怒られた。ふざけんな。どれだけ待つてやつたと思つてるんだ。この僅かの隙を見逃したらまた数分待たされることになるだらうが。
夫婦杉を通り過ぎ、大王杉を通り過ぎ、だんだん人が少なくなつて来た。上り客をほとんど通したやうだ。漸くまともに歩ける。だがここで足に異変を感じ始めてゐた。可児で長距離歩いた時にもなつてゐたが、足の親指の先が痛むのだ。爪が靴に押されてゐるんだらうか。下りの時に痛むので靴の中で足が動いて靴の先端に指を押し付ける形になつてゐるのかもしれない。靴が足に合つてゐないのかもしれない。まああまり気にしなくても良いだらう。どんどん疲労感が出て来る。エネルギーも不足して来てゐる感じだ。飴を舐めながら早歩き。体力の無い俺でさへまだ歩けるのに、俺より若い奴が死にさうな感じでゆつくりゆつくり歩いてゐた。俺に道を譲つてくれたが、そのまま動けずに止まつてゐた。弱過ぎだらう。さては都会人だな。山に慣れてゐないんだらう。下りは危ないからと思つて中途半端に一歩一歩踏みしめて歩くから余計に無駄なエネルギーを消耗する。力を抜いて重力に任せて笑顔で宙を舞へば恐ろしく楽なのに。注意すべきところだけ注意して歩けば良い。山の歩き方を知らんのだな。
縄文杉からウィルソン株まで相当な距離がある。だが勾配がキツいのはここまでだ。ここからは楽になるのか、逆につらくなるのか。取り敢へずウィルソン株で休憩していくことにした。もう汗で全身ズブ濡れだ。微妙に小雨が降つてゐるやうな気もするがよく分からない。ここまで濡れたらもう今さらどうでも良い。ウイダーinゼリーを飲み、チョコパンを食ひ、茶を飲む。水も飲む。またウィルソン株を撮影したりもする。もうここに来ることは無いんだらうなと思ひながら風景を目に焼き付ける。休憩してゐたら観光客に声を掛けられた。ウィルソン株をバックに写真を撮つて欲しいらしい。快く引き受けて撮影してあげた。撮りませうか?と言つてくれたが俺は写真に写りたくないので断つた。風景だけの写真で良い。さう言へば最近俺は写真に全く写つてゐないな。盆に叔母の使ひ捨てカメラで写されたが、夜だつたし綺麗に撮れてゐないかもしれん。俺が今急に死んだら遺影に困るだらうな。たぶん免許証の写真を引き伸ばして使ふことになるんだらうな。
翁杉で写真撮影。もう登つて来る登山客も少ないし、俺のペースが速いから上から下りてくるのも少ない。じつくり写真を撮れる。しかし天気が悪くてかなり暗いのでまともに写せない。遅いシャッタースピードでブレないやうに撮るには体力を消耗し過ぎてゐる。手が震へてダメだ。フラッシュを焚くと逆に暗く写つたりする。三脚を持つて来るべきだつたかもしれんな。もういい。帰る。人がゐないのでかなりの速度で歩ける。かういふ場所は速く歩いた方が圧倒的に楽だ。大株歩道入口まで辿り着いた。足の指先が痛いのが気になり始めた。可児で長距離散歩をした時も同じやうな痛みを感じてゐたが大丈夫だつた。今回も大丈夫だらうか。何か今回は親指だけでなく中指も痛い。人差し指か中指か薬指か正確には分からんのだが、親指以外も痛む。それは初めてのことだ。何となく不安だが、どうすることもできない。それよりも肩の痛みが激しい。クソ重いリュックのせゐで猛烈な肩凝りになつてゐる。肩凝りから筋肉痛になりさうだ。肩だけでなく背中や腰にまで影響が出さう。発汗量も凄まじい。髪を搾ると大量の水が出る。服も相当濡れてゐる。少し雨も降つてゐるやうだから全てが汗といふわけではないだらうが、相当な量の汗をかいてゐるのは間違ひ無い。
往きは大混雑だつた大株歩道入口の便所は無人だつた。数人休憩してゐたが、ほとんど人がゐない。便所で小便を軽く屠り、水場で水を飲んでペットボトルに補給した。そして線路を歩き出す。長い長い線路。考へるだけで憂鬱だ。
延々とどこまでも続く線路をひたすら歩き続ける。往きは左側に崖があつたが帰りは右側に崖がある。それしか違ひはない。同じだ。嫌になるぐらゐ同じだ。どこまでもどこまでも続く。レールの間に敷かれた微妙に歩きにくい板をひたすら歩く。同じやうな橋をいくつも渡る。何か下半身全体が痛くなつて来た。つま先の痛みも激しくなつて来る。ふくらはぎや腿が既に筋肉痛になりかけてゐる。明日は動けんだらうなと思つた。恐ろしく眠いし。この眠さは単純に前日の睡眠不足のせゐだらうか。それとも疲労し過ぎてヤバい状態なのだらうか。線路がアホみたいに長い。写真を撮る手も震へる。雨が降つて太陽が隠れてゐるせゐで光量が少ない。だから感度を上げるしかないのだが、感度最大になつても足りないのでシャッタースピードが遅くなる。疲労で手が震へるのでブレてしまふ。まともに撮れる気もしない。
長い!!叫びたくなるほどに長い!まだか。一体何時間歩き続けてるんだ。いい加減にしろ。腹が立つて来た。もう来ねえよ。畜生。時間が勿体無くて休む気にもならん。疲労が激しいから休みたいのだが、ここで休むぐらゐなら早く下山して宿で休みたい。早く帰らせろ。でも足がなかなか進まない。早歩きをしてゐるのだが、距離が長過ぎてなかなか目的地に着かない。後ろから来る奴らが異様に速い。山道ではアホみたいに遅いくせに平地になると速いんだな。これだから都会人はウザい。10人ぐらゐ道を譲つてやつた。そんなに道を譲るといふことは自分が思つてゐるよりもかなり遅い速度で歩いてゐたのかもしれない。全身が痛い。肩の痛みが一番鬱陶しい。下半身も全部痛い。ケツもモモもハギもツメも痛い。あああぁあぁぁあぁ疲れた。早く帰らせろ。まだですか。どこまで歩けば良いのですか。愛キュンに慰められたい。愛キュン愛キュン愛キュン!ああぁあぁぁあ帰りたい。面倒臭い。トロッコに乗らせろ。歩く意味無えだらうが。長えんだよ。気が狂ひさうだ。もうダメだ。限界に達した。早歩きでは埒が明かん。小走りモードに切り替へた。早く帰らせろ。もうここまで来たらエネルギー切れで死ぬことも無いだらう。あと4kmか?まだ5kmあるのか?どうでも良い。無駄な動きの無い小走りに切り替へてひたすら進む。通常の早歩きよりも速い早歩きみたいなものだが速度は1.5倍だ。叫びたい気持ちを堪へながら猛烈に進んだ。そしたらすぐに小杉谷小屋に到達。拍子抜け。
往きは人が多過ぎて休めなかつた小杉谷小屋だが、帰りは10人程度しかゐなかつたのでここで休憩。ウイダーinゼリーの最後の1つを飲み、水も飲んで飴も食ふ。さて、帰るぞ。ここからが大変だ。レールの間に板が敷かれてゐないから歩きにくい。疲れる。しかも意外と距離がある。3km近くある。大変だ。まだ1時間近く掛かるだらうか。小屋で時計を見たら13時48分。予定よりずいぶん早い時間だ。朝早く出て夕方遅く帰るイメージだつたが全然違ふ。一番ウザい時間帯に来てしまつたやうだ。あんなに渋滞するなら遅く出た方が良かつたかもしれない。最後尾ぐらゐの位置なら後から来る登山客に道を譲ることも無く、普通に歩けるだらう。早く登ると帰りが渋滞してウザい。縄文杉のところも人が多くてゆつくりできない。遅めに出る方が良いと思ふ。遅くとも7時までには出発しろと登山口に書いてあるが、8時でも良いかもしれない。
小杉谷橋を渡つて線路を歩く。谷の反対側へ来たので今度は左側が崖。崖側にコケたら人生終了だ。結構怖い。道が歩きにくくて速く歩けない。キツい。疲労もピークに達してゐる。長いな。3kmといふと可児の家から西可児中まで歩くぐらゐの距離か。結構あるな。ひたすら崖沿ひの線路を歩く。ここは橋が怖い。手すり等が全く無い。ハラワタがモワモワする。疲労で脚に力が入らんから時々フラつく。こんなところでよろめいたら命は無い。何も考へずに呆然とアホみたいに歩き続け、つひにトンネルに到達。あとほんの少しだ。やつと解放される。「縄文杉を見に行くために体を鍛へる」といふ地獄からもこれで解放されるのだ。嬉しさのあまりトンネル内で思はずデジカメを動画モードにして撮影しながら登山口まで歩いた。14時半に下山完了。往復8時間。この貧弱な俺でも8時間なのに一般人が9時間とか10時間とか絶対嘘だ。あああぁあぁ疲れた。もう来ねえよ。また来たいとか何度でも見たいとか思ふ人もゐるんだらうが、俺はもう良い。ただのデカい杉を見るためだけにこんなに歩きたくねえよ。確かに凄いけど1回見れば十分。また見たくなつたら本とかテレビで見れば良いよ。生で見るのは一度で良い。もう脳に焼きついたし写真も撮つた。
便所で尿を軽く屠つた。結局一度もウンコに苦しめられなかつた。珍しいこともあるものだ。といふか、長い人生で初めてのやうな気がする。昨日14時半頃にここに下見に来たが、その時に足を引き摺りながら歩いてゐる登山客を見た。あれはリタイヤして途中で引き返して来たんだと思つたが、もしかしたら普通に縄文杉を往復したのかもしれない。俺も14時半の時点でここまで戻つて来てゐる。俺も足を引き摺り気味だ。左脚の根元の関節がかなり痛むし足の爪も痛い。まあどうでもいい。取り敢へず帰る。他の登山客はバスを待つてゐるが俺はバイクだ。素早く帰る。荒川三叉路まで上つて行き、今度は下つて行く。安房まで一気に下りる。途中に屋久杉自然館がある。予想以上に早く帰つて来れたので寄つて行きたいが、残念ながら休館日だ。8月は休まずやつてゐるが、9月からは第一火曜日が休みだ。久しぶりの休みといふことだ。休館日にしては何台が車が停まつてゐるのが不自然だなと思つたが、スルーして安房まで出た。そしてそのまま小瀬田の宿へ。山場を乗り切つた達成感よりも解放感や安堵感の方が強い。これで明日以降何もしなくても縄文杉を見たといふだけでOKだらうよ。
宿に帰つたら女2人組はもうゐなかつた。玄関開けつぱなしで出て行つた。危ないな。取り敢へず風呂に入つて汗を流し、着替へた。脚がアホみたいに痛い。既に筋肉痛になつてゐる。改めて見てみると下半身がボロボロな気がする。そこら中の関節や腱や靭帯が痛む。筋肉も痛い。熱い。やはりかなり無理をしたんだらうと思ふ。寝る時になつて猛烈に痛くなるのかもしれない。これは薬局に行つて何か買つて来た方が良いかもしれない。ここでふと気付いたのだが、今日は月曜ではないか。日曜に屋久島に来て今日が2日目のはずだから火曜ではない。ならば屋久杉自然館は休館日ではなかつたのだ。でもこんなに疲労が激しい状態で行くのもつらいからスルーして良かつたのかもしれない。
一寸横になつたら急激に恐ろしく眠くなつて来た。寝てしまつても良いが、温泉に行きたい。温泉に入れば疲労回復も早まるかもしれない。去年行つた汚い楠川温泉には行かない。あそこはわざわざ金を払つてまで行くやうなところでもないだらう。今日は屋久島空港前にある、まんてんといふ旅館に行く。宿泊客でなくても温泉に入ることができる。1500円もするのがキツいが、まあ良いだらう。銭湯みたいな感覚で値段を見たからクソ高いと感じただけで、温泉なら別にそんなに高いといふほどでもないかもしれない。ついでにそこで飯も食はうと思ふ。そして温泉の帰りに薬局でバンテリンでも買へば完璧だらう。だからまだ寝るわけにはいかん。
CHOSANGと椅子と弟と親に縄文杉の写真を添付してメールを送つた。Age君にも送らうと思つたがAge君のメールアドレスを知らないことに気付いた。電話番号すら知らない。SALLYさんが亡くなるまでCHOSANGの電話番号も知らなかつた。長年一緒にバンドやつてゐるのに。しばらくして親から電話が来た。今日も新しい客が泊まりに来るらしい。親経由で連絡するのが面倒なのか、民宿のオーナーが俺の携帯電話の番号を知りたいらしい。勝手に教へておけば良いのに。一度俺の方から民宿の人に電話を掛けてくれと言ふ。番号教へるから一寸待てと言はれて切れた。電話を切らないと番号を見れないらしい。もう一度掛かつて来て番号を聞いたのでメモして、すぐに掛けてみた。今日新しい客が泊まりに来ることと、明日自分も歯の治療のついでに行くといふことを伝へられた。完全に貸切状態にはならんやうだな。1日目は女2人、2日目の今日は男1人、3日目はオーナーが来る。オーナーは何日ゐるのか知らない。
他の客が来るといふことだが、それだからと言つて別に何も変はらない。温泉へ。先にドラッグイレブンで筋肉痛の薬を買つて行つた方が良いかなと思つたが、種子島と違つてたぶん遅くまでやつてゐるだらうと思ひ、そのまま温泉旅館へ行つた。中に入り、受付の人に食事はできるかと聞いてみた。バイキングと普通のレストランがあるらしい。レストランの方はダメかもしれないと言ふ。一応確認してみると言つて電話で聞いてゐたが、やはりダメだつたらしい。屋久島は観光客が多いから、宿だけでなく飲食店も予約しないとダメな場合が多い。バイキングはOKだといふので猛烈に食ふことにした。縄文杉登山でアホみたいにエネルギーを消耗して腹が減つてゐる。温泉も入ることを告げ、入館料1500円を払ふ。入館料を払ふとロッカーの鍵とタオルセットと作務衣を貸してくれる。これで奥の温泉に入り放題だ。ロッカーの鍵にはバーコードがついてゐて、追加料金が必要なやつはフロントで頼むとバーコードを読み取つて向うで記録するらしい。追加分は帰りに払ふことになる。飯の登録を済ませ、温泉の前にバイキングへ。
ヤバい。非常に場違ひなところに紛れ込んだ気がする。職歴無し無職の世間知らずな貧乏人が来て良い場所とは思へん。何か料理がイチイチ高級だ。今日獲れた地魚で職人が寿司を握つてくれる。その場で揚げた、さつま揚げを出してくれる。飛魚の天ぷらとかもあるし、鹿児島の郷土料理みたいなのもある。味噌汁が白なのに美味い。刺身も凄い。鹿児島の黒豚を目の前で焼いてくれる。茹でて真つ二つにした旭蟹といふやつがゴロゴロ置いてある。デザートも高さうな感じがする。腹が減つてゐるといふのもあるだらうが、何もかもがイチイチ美味い。すげえ。旅館の人の接客態度とかも何か高級感が漂つてゐる。後払ひだから値段知らんのだけど、もしかして俺死んだ?
普段の2食分ぐらゐの量を軽く食ひ、大体美味さうな物は食ひ尽くした。ここからは値段の高さうな物を中心に食ふ。どうせどんなに食つても元は取れないだらうが、できるだけ損を少なくしておきたい。かういふ思考が貧乏人だな。焼酎とかも飲んでみたいが、別料金だから怖い。飯を大量に食つて、デザートの黒糖プリンやマンゴーアイスやクソ甘いパインを胃にブチ込み、やたら美味いコーヒーを飲んで食堂を出る。これだけ食つてもまだ完全に満腹ではないのが不思議だ。あまり食ひ過ぎると温泉で危ないことになる。腹の皮で胃が圧迫されるから直立して歩けないといふレベルまで食ふことが稀にあるのだが、その状態まで食ふと温泉の中で自由に動けなくてつらい。もう少しデザートを食ひたかつたが、適度なところで歯を食ひ縛りながらやめておく。
温泉に行き、体を洗ふ。たぶん恐ろしく大量の垢が出ただらうと思ふ。足の親指の爪の色が微妙にをかしい。押すと軽く痛痒い。霜焼けみたいな感じだ。まあ大丈夫だらう。肩とふくらはぎとケツの筋肉が既に痛い。左脚の付け根の関節が歩くと時々痛む。足首のスジも痛い。全体的に痛い。さすがにあれだけの荷物を背負つて長距離歩けばノーダメージではゐられないだらう。元々体が弱いしな。
客は何故か少ない。広い内風呂で激しく平泳ぎ。温泉に入つて初めて気付いたのだが、どうやら左の腿を怪我してゐたらしい。湯が染みる。木の根か岩に当てたか擦つたかしたんだらう。見ても分からない程度なので大丈夫だらう。露天風呂にも入り、甕の風呂にも入り、檜風呂にも入る。檜風呂の方はお湯が少しヌルヌルしてゐていかにも温泉といふ感じがする。サウナが2種類あるので2種類とも入つた。12分計といふ時計が中にあつたので12分入るものなのかと思つて頑張つてみたが5分も持たない。無理。死にさうになりながら浴場を出て水を飲み、再び温泉へ戻る。色んな風呂に出たり入つたりを繰り返しながら脚や肩を揉み解す。可能な限り長い時間入つてゐないと金が勿体無いとか思つてしまつてなかなか出ることができない。温泉も長時間入ると却つて疲労が溜まるから良くないのだが、それでもやめられない。サウナはどこにでもあるからこんなところまで来てわざわざ入ることも無いだらうと思ひ、温泉に入る。内風呂は何か温泉ではなくただのお湯のやうな気がするので檜風呂に重点的に入る。体が温まり過ぎたら湯から出て椅子に座つて外の風に当たる。21時頃まで入つてゐた。
フロントでタオルと作務衣を返してバイキングの金を払ふ。いくらだらうかとビクビクしてゐたが、3000円だつた。3000円であの料理ならかなり良いと思ふ。入館料と合はせて4500円か。今泊まつてる民宿の宿泊料より高いな。温泉旅館の土産屋を覗いて休憩してから外へ。異様に涼しくて気持ち良い。あとはドラッグイレブンで筋肉痛の薬を買つて帰つて寝るだけだ。明日はもう寝たきりでも良い。起きれたら島1周か海水浴でもしよう。明後日に白谷雲水峡に行きたいから明日はあまり体力を使はないやうにする。ドラッグイレブンに寄つてみたら閉まつてゐた。何と21時までだつたらしい。閉店から15分。実に中途半端な時間に来てしまつた。まあ仕方が無い。店や家が少ない真つ暗な場所を走りながら空を見上げたら星が異様に綺麗だつた。こんなに澄んでハッキリ見えるものなのか。空ばかり見て走つてゐたら事故るな。どこかにバイクを停めて星を眺めてから帰りたい気もする。でもそのまま空を見ながら帰つた。
民宿の外にデカいオフロードバイクが停まつてゐた。どうやら客が来てゐるらしい。玄関は閉まつてゐたので裏から入る。廊下で客に会つた。こんばんはと挨拶しただけ。昨日の女はよく話し掛けて来たが今日の男の客は無愛想だ。居間でテレビをつけたら福田首相が辞意表明とか言つてゐた。どのチャンネルもそればかり。昨日買つた三岳を舐め回しながらしばらくテレビを見てボーッとしてゐたが、疲れたので寝ることにした。デジカメの画像をPCに取り込み、充電しておく。さすがに日記を書く余裕は無かつた。
公開日時 | 不明 |
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本文文字数 | 45206文字 (タグ込み) |
URL | https://orca.xii.jp/br/diary/diary.cgi?id=dogoo;date=20080901 |
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