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犬土偶日記

海の近くに住みたい

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2008年07月31日

種子島2008 16日目 The 1st 漁

公開日時: 不明

干潮時刻は午前11時32分。9時過ぎに下の海へ様子を見に行つてみた。まだ早かつた。もう少し待たねばなるまい。海へ下りる場所が少ない。草が刈られてゐないので下りられない。藪の中を行くと蛇や蜂にやられるかもしれない。坂を下りたところより南側の方へ行きたいのだが、下の店の裏から下りるしかないかもしれない。取り敢へず店の裏から下りてみた。先日動画を撮影した場所はもうすつかり陸地になつてゐてずいぶん沖まで歩いて行ける。だが干潮時はもつと引いて行く。岩場を歩いて小川を渡り、南の方へ行つてみた。恐ろしく暑い。普通の靴で歩いてゐたらアホみたいに滑りまくつた。あまり濡れたところへは行かない方が良いか。海の匂ひが激しい。しばらく歩いて振り返つたらアンパンマンの看板のすぐ近くの階段のところの草が刈られてゐた。島に来てすぐの頃は草が生え放題で川の階段から下りるのはキツい感じだつたが、いつの間にか刈られてゐた。店の裏まで行かずにそこから下りれば良いか。取り敢へず帰る。

日射病や熱射病で死ぬかもしれん。かなりヤバい感じがする。脱水症の危険もかなりある。様子見だけでもずいぶん歩いた。本格的に貝を漁るとエネルギー消費量も激しいだらう。飯を食はずに行つたら死ぬ気がしたので無理して飯を食つた。デジカメに防水プロテクタを装着し、クシを研いで準備する。上半身は当然長袖のシャツだ。暑いが日焼けで死ぬよりはマシだ。露出部分には日焼け止めを必要以上に擦り込む。水中眼鏡や獲物を入れる網も用意した。滑り止めのついた磯用足袋も準備した。脱水症防止のために必要以上に水も飲んでおく。完璧。待つてろよナガラメ・イセエビ!

磯1 フナムシの大群 磯2 磯3

沖に出てすぐに致命的なミスに気付いた。手袋を忘れた。山人なので生手で岩の下を漁つたり藻がビッシリ生えた岩に触つたりすることができない。これは本気で致命傷だ。収獲にも著しい影響が出るだらう。しかし沖まで歩いてきて今さら家まで戻る気にもなれない。仕方が無い。今日のところはこれで我慢するか。岩に大量に開いた小さい穴の中にアナゴといふ貝がゐる。アナゴといふのはウナギみたいな魚のことではなくここらでは貝のことを言ふ。5〜8cm程度の1枚貝でアワビとかに似た形のやつだ。正式名称は知らん。穴の横とか裏とか異様に捕りにくい場所に張り付いてゐて殻には藻が生えてゐたりする。パッと見ただけでは岩の一部なのか藻なのか他の生き物なのか分からない。だから素人にはなかなか見つけられない。穴の中にはナマコやウニが大量にゐる。ウニは捕らない。良さが分からない。例へ高級品でも1mlも食ひたいと思はない。ウニは腐るほどゐるが、食へるやつと食へないやつがゐるのかもしれない。去年地元の人は棘が白やオレンジのやつばかり捕つてゐた。ウンコ色のウニは不味いんだらうか。まあ俺はどんなウニも捕らんけど。

苦労してアナゴを1匹見つけた。鉤爪状の金属棒を隙間に入れてテコの原理でクイッと回すやうに剥がす。ダメだ。上手くいかない。殻が割れてしまふ。それにしても、絶望的にゐない。ただ俺が見つけられないだけだらうか。ナガラメは捕れないかもしれないがアナゴ程度ならいくらでも捕れると思つてゐた。去年は俺はほとんど捕れなかつたが、それは眼鏡が無くて何も見えなかつたからだ。今年はそのために眼科に行つて苦労してコンタクトレンズを手に入れた。今日も朝からアホみたいに苦しんで膨大な時間を消費してコンタクトレンズを装着してきた。適当にアナゴを20個か30個ぐらゐ捕つてからナガラメを探さうと思つてゐた。なのにアナゴがゐない。穴の中にはウニとナマコしかゐない。ウニを抉り出してその奥にゐないか見てみたりするがダメだ。

異常に暑い。死ぬほど暑い。こんなに暑いのが許されて良いのか。死ぬぞ。海に飛び込んで泳いでみたりするが日差しが強過ぎて意識が朦朧とする。運動不足のせゐで早くも足が痛くなり始めてゐる。集中力も続かない。もう帰りたい。去年はこんなにつらくなかつたやうな気がするんだが。まあ良い。取り敢へず休憩しよう。網とクシを岩の上に置いてデジカメだけ持つて潜る。波があまり入つてこない場所で水中動画撮影をしてみた。やはり青いやつが多い。食へさうな魚はゐない。

漁を再開。岩の上を歩きながら隙間を必死に探して歩き回る。カスみたいな貝は拾はない。肉が多い貝しか眼中に無い。針で抉り出して食ふ小さい巻貝など要らない。デカい貝が欲しい。何でこんなにゐないんだ。まさか昨日のうちに地元民に捕り尽くされてしまつたんだらうか。それとも実は大量にゐるのに山人の俺には発見できないだけだらうか。ずいぶん長い時間岩場をウロウロと歩き回つた。外に出てゐる部分よりも海に沈んでゐる部分にたくさんゐるのかもしれない。もつと沖で潜つて探した方が良いだらうか。でも手袋が無いから岩に掴まつたりするのに抵抗がある。岩の下に手を入れて探したりするのも躊躇ふ。

シャコエビがゐるやうだ。時々見かけるのだが、すぐに岩の下に逃げられる。明日は狙つてみよう。イセエビは全く見当たらない。どこにゐるんだ。ナガラメも全くゐない。たぶんナガラメは岩の下にゐる。今日は素手だから漁れない。2時間程度で体力の限界に近づいて倒れさうになつたので帰ることにした。帰りながらも貝を探し回る。アナゴは5個程度しか捕れなかつた。何だこの惨めな結果は。半泣き。坂の下の店の近くの岩場でカニの群れを見つけた。去年はほとんど見かけなかつたが今年は大量にゐる。これを食ひたかつた。別に高級なものではない。名前も知らない。でも種子島に来たらこれを食はねば。去年は1匹も食はなかつた。今年は食ふぞ。石や岩の裏や横にゐる。カニの左右に両手を構へて片方の手をカニの方へ動かすともう片方の手の方へ逃げて行く。そこを捕まへるのだ。これも岩の下に手を入れる必要があるので生手では怖い。何がゐるか分からんからな。苦労して数匹捕まへた。疲れたので今日のところはこれでやめておかう。

本日の収獲消費したエネルギーや時間を考へると絶望的に割に合はん収獲だ。予定ではもつと大量に捕れるはずだつた。まあかういふ惨めな結末もある程度予想はしてゐたけども。まづは適当に洗ふ。貝に藻が大量についてゐるので洗ひ落とす。これは早めに料理してしまつた方が良いのだらうか。置いておくと腐るかもしれない。もうたぶん全部死んでるし。一応洗つてから塩水に漬けておいた。

風呂に入つてシャツや水着を洗ひ、全身の海水を洗ひ流した。疲労が凄まじい。海に出るだけでずいぶんとエネルギーを消費するらしい。異様に喉が渇く。冷蔵庫に残つたジュース類を全て飲み干し、さらに水をガブ飲み。気分も悪いし疲労感も凄いし、もしかしたら日射病の一歩手前みたいな感じなのかもしれない。朝干した洗濯物はまだ完全には乾いてゐない。水着とシャツを干し、布団も車の上に干した。布団を叩いたら埃がアホみたいに出た。何十回叩いてもいつまでもいつまでも無限に煙状の埃が出る。どうなつてるんだ。疲れ果てて家の中へ。暑い。エアコンつけて涼みながらネットをやつてダラダラ過ごす。

外で車の音が聞こえた。そして何か声も聞こえたやうな気がした。客?ここは無人だと思はれてゐるはずだから誰も来ないだらう。また郵便屋でも来たのかなと思つて外を覗いてみた。そしたら何とあの肺癌の親戚が来た。肺癌が脳に転移したと聞いてゐたから去年より痩せ衰へてゐるのかと思つてゐたが、去年より太つてずいぶん元気さうだつた。来てみたら車があつたから叔父がゐると思つたとか言つてゐた。盆が近いから誰か帰つて来てゐるかもしれないと思つて様子を見に来たんだらう。まだ俺しかゐない。しばらく雑談してから仏壇に線香あげて帰つて行つた。今日海へ行つてアナゴを5個ぐらゐ捕つたと話したら笑はれた。やはり地元民ならもつと大量に捕るんだらうな。ナガラメは?と聞かれたが、そんな簡単に捕れるものなんだらうか。どこにもゐない。見つけられない。明日はせめて1匹は捕りたい。

食中毒が怖いので早めに獲物を食ふことにした。小さい貝やカニは茹でて食ふ。茹でたらお湯が一気に黄色くなつた。どこから出てきた色なのかよく分からん。カニから大量に卵が出てきた。しばらく塩茹でしてからモサモサ食つた。懐かしい味だ。このカニはあまり食ふところが無い。最後に食つたのはもうずいぶん昔なので正直どうやつて食ふのかもよく分からない。脚だけ身を抜いて食つたが、ほとんど食ふ場所が無い。頭を割つてみたが身はほとんど無い。

アナゴ大きめのアナゴは焼いて食ふ。塩を程好く馴染ませてグリルで焼く。適当に焼けたところで醤油を少し足らしてもう少し焼く。ここではあの甘い醤油は使はない。かういふ時こそうす口の白だし醤油だらう。ヤバいな。見ただけで涎が噴き出す。殻から身を外して口に入れる・・・。これは・・・。うめえよ。何だこれ。言葉にならん。海人は卑怯だ。こんなものを好きなだけ食へるなんて完全な勝ち組ぢやないか。ああ海の幸。海のそばに生まれなかつたことが悔しい。山の幸とかいふのもあるが、ハッキリ言つて山のは幸でも何でもない。ただのカスだ。食ふ物が無くて仕方無く無理矢理変な物を食つてるだけで、山の幸なる物に美味い物は一切無い。海人は卑怯だ。生まれながらにして人生の勝者だ。山人には勝ち目が無い。例へ他の部分で大成功して大金持ちになつて海の幸を食ひ放題になつたとしてもそれは勝ちではない。ああ海。山人には海が羨ましい。海に憧れる。山なんてカスだ。

夕方に洗濯物と布団を取り込んで倒れた。コンタクトレンズを装着したままいつの間にか寝てゐた。海で相当疲れたんだらう。23時頃に目が覚めた。慌ててコンタクトレンズを外し、遅めの晩飯を食つた。まだすげえ疲れてゐる。明日は新月。明日が一番潮位が下がる。明日こそ勝負。明日が本番。待つてろイセエビ・ナガラメ。明日は手袋着けて完全装備で全力を出す。それにしてもアナゴがあんなに美味かつたとは。去年は祖母が甘い醤油で煮たので砂糖醤油の味が濃過ぎてそんなに激烈に美味いと感じなかつたが、塩焼きだと激烈に美味い。明日は限界まで粘つて大量に捕るぞ。

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公開日時不明
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