平成25年度 行政書士試験問題 法令等 [ 問題1〜問題40は択一式(5肢択一式) ] 問題1 次の文章にいう「第二段の論理の操作」についての説明として、妥当なものはど れか。  成文法規の解釈は、まず「文理解釈」に始まり、次いで「論理解釈」に移る。文理 解釈は、成文法の文章および用語について法規の意義を確定し、論理解釈は、成文法 の一般規定をば具体的な事件の上に当てはめるための論理的の筋道を考察する。論理 解釈を行うに当っては、第一に「三段論法」が活用される。三段論法による法の解釈 は、法規を大前提とし、事件を小前提として、結論たる判決を導き出そうとするので ある。しかし、いかに発達した成文法の体系といえども、絶対に完全無欠ではあり得 ない。故に、特殊の事件につき直接に三段論法を適用すべき明文の規定が欠けている 場合には、更に第二段の論理の操作が必要となる。 1 甲の事件につき規定がなく、類似の乙の事件に関しては明文の規定がある場合、 甲にも乙の規定を準用しようとするのは、「反対解釈」である。 2 乙についてのみ規定があり、甲に関する規定が欠けているのは、甲に対する乙の 規定の準用を排除する立法者の意志である、という理由から、甲に対しては乙の場 合と反対の解釈を下すのは、「勿論解釈」である。 3 甲の事件につき規定がなく、類似の乙の事件に関しては明文の規定がある場合、 甲にも乙の規定を準用しようとするのは、「類推解釈」である。 4 乙についてのみ規定があり、甲に関する規定が欠けているのは、甲に対する乙の 規定の準用を排除する立法者の意志である、という理由から、甲に対しては乙の場 合と反対の解釈を下すのは、「拡大解釈」である。 5 甲の事件につき規定がなく、類似の乙の事件に関しては明文の規定がある場合、 甲にも乙の規定を準用しようとするのは、「縮小解釈」である。 問題2 司法制度改革審議会の意見書(平成13年6月公表)に基づいて実施された近年 の司法制度改革に関する次のア〜オの記述のうち、明らかに誤っているものの組合 せはどれか。 ア 事業者による不当な勧誘行為および不当な表示行為等について、内閣総理大臣の 認定を受けた適格消費者団体が当該行為の差止めを請求することができる団体訴訟 の制度が導入された。 イ 一定の集団(クラス)に属する者(例えば、特定の商品によって被害を受けた 者)が、同一の集団に属する者の全員を代表して原告となり、当該集団に属する者 の全員が受けた損害について、一括して損害賠償を請求することができる集団代表 訴訟の制度が導入された。 ウ 民事訴訟および刑事訴訟のいずれにおいても、審理が開始される前に事件の争点 および証拠等の整理を集中して行う公判前整理手続の制度が導入された。 エ 検察官が公訴を提起しない場合において、検察審査会が2度にわたって起訴を相 当とする議決をしたときには、裁判所が指定した弁護士が公訴を提起する制度が導 入された。 オ 日本司法支援センター(法テラス)が設立され、情報提供活動、民事法律扶助、 国選弁護の態勢確保、いわゆる司法過疎地での法律サービスの提供および犯罪被害 者の支援等の業務を行うこととなった。 1 ア・イ 2 ア・オ 3 イ・ウ 4 ウ・エ 5 エ・オ 問題3 次の文章は、ある最高裁判所判決の意見の一節である。空欄 [ア]〜[ウ] に入 る語句の組合せとして、正しいものはどれか。  一般に、立法府が違憲な [ア] 状態を続けているとき、その解消は第一次的に立法 府の手に委ねられるべきであって、とりわけ本件におけるように、問題が、その性質 上本来立法府の広範な裁量に委ねられるべき国籍取得の要件と手続に関するものであ り、かつ、問題となる違憲が [イ] 原則違反であるような場合には、司法権がその [ア] に介入し得る余地は極めて限られているということ自体は否定できない。しか し、立法府が既に一定の立法政策に立った判断を下しており、また、その判断が示し ている基本的な方向に沿って考えるならば、未だ具体的な立法がされていない部分に おいても合理的な選択の余地は極めて限られていると考えられる場合において、著し く不合理な差別を受けている者を個別的な訴訟の範囲内で救済するために、立法府が 既に示している基本的判断に抵触しない範囲で、司法権が現行法の合理的 [ウ] 解釈 により違憲状態の解消を目指すことは、全く許されないことではないと考える。      (最大判平成20年6月4日民集62巻6号1367頁以下における藤田宙靖意見)    ア   イ       ウ 1 不作為  比例      限定 2 作為   比例      限定 3 不作為  相互主義    有権 4 作為   法の下の平等  拡張 5 不作為  法の下の平等  拡張 問題4 私法上の法律関係における憲法の効力に関する次の記述のうち、最高裁判所の判 例に照らし、正しいものはどれか。 1 私人間においては、一方が他方より優越的地位にある場合には私法の一般規定を 通じ憲法の効力を直接及ぼすことができるが、それ以外の場合は、私的自治の原則 によって問題の解決が図られるべきである。 2 私立学校は、建学の精神に基づく独自の教育方針を立て、学則を制定することが できるが、学生の政治活動を理由に退学処分を行うことは憲法19条に反し許され ない。 3 性別による差別を禁止する憲法14条1項の効力は労働関係に直接及ぶことにな るので、男女間で定年に差異を設けることについて経営上の合理性が認められると しても、女性を不利益に扱うことは許されない。 4 自衛隊基地建設に関連して、国が私人と対等な立場で締結する私法上の契約は、 実質的に公権力の発動と同視できるような特段の事情がない限り、憲法9条の直接 適用を受けない。 5 企業者が、労働者の思想信条を理由に雇い入れを拒むことは、思想信条の自由の 重要性に鑑み許されないが、いったん雇い入れた後は、思想信条を理由に不利益な 取り扱いがなされてもこれを当然に違法とすることはできない。 問題5 権力分立に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。 1 アメリカでは、国会議員と執行府の長の双方が国民によって直接選挙されるが、 権力分立の趣旨を徹底するために、大統領による議会の解散と議会による大統領の 不信任のメカニズムが組み込まれている。 2 政党が政治において主導的役割を演じる政党国家化が進むと、議院内閣制の国で は議会の多数党が内閣を組織するようになり、内閣不信任案の可決という形での議 会による内閣の責任追及の仕組みが、一般には、より実効的に機能するようになっ た。 3 伝統的には、議会の立法権の本質は、国民に権利・利益を付与する法規範の制定 であると考えられてきたが、行政国家化の進展とともに、国民の権利を制限したり 義務を課したりするという側面が重視されるようになった。 4 一般性・抽象性を欠いた個別具体的な事件についての法律(処分的法律)であっ ても、権力分立の核心を侵さず、社会国家にふさわしい実質的・合理的な取扱いの 違いを設定する趣旨のものであれば、必ずしも権力分立や平等原則の趣旨に反する ものではないとの見解も有力である。 5 君主制の伝統が強く、近代憲法制定時に政府と裁判所とが反目したフランスやド イツでは、行政権を統制するために、民事・刑事を扱う裁判所が行政事件も担当し てきた。 問題6 次のア〜オのうち、議院の権能として正しいものはいくつあるか。 ア 会期の決定 イ 議員の資格争訟 ウ 裁判官の弾劾 エ 議院規則の制定 オ 国政に関する調査 1 一つ 2 二つ 3 三つ 4 四つ 5 五つ 問題7 次の1〜5は、法廷内における傍聴人のメモ採取を禁止することが憲法に違反し ないかが争われた事件の最高裁判所判決に関する文章である。判決の趣旨と異なる ものはどれか。 1 報道機関の取材の自由は憲法21条1項の規定の保障の下にあることはいうまで もないが、この自由は他の国民一般にも平等に保障されるものであり、司法記者ク ラブ所属の報道機関の記者に対してのみ法廷内でのメモ採取を許可することが許さ れるかは、それが表現の自由に関わることに鑑みても、法の下の平等との関係で慎 重な審査を必要とする。 2 憲法82条1項は、裁判の対審及び判決が公開の法廷で行われるべきことを定め ているが、その趣旨は、裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度と して保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにある。 3 憲法21条1項は表現の自由を保障しており、各人が自由にさまざまな意見、知 識、情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、個人の人格発展にも民主主義 社会にとっても必要不可欠であるから、情報を摂取する自由は、右規定の趣旨、目 的から、いわばその派生原理として当然に導かれる。 4 さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取することを補助するものとして なされる限り、筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重さ れるべきであるが、これは憲法21条1項の規定によって直接保障される表現の自 由そのものとは異なるから、その制限又は禁止には、表現の自由に制約を加える場 合に一般に必要とされる厳格な基準が要求されるものではない。 5 傍聴人のメモを取る行為が公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げるに至ることは通常 はあり得ないのであって、特段の事情のない限り、これを傍聴人の自由に任せるべ きであり、それが憲法21条1項の規定の精神に合致する。 問題8 行政庁の裁量に関する次のア〜エの記述に関して、最高裁判所の判例に照らし、 その正誤を正しく示す組合せはどれか。 ア 地方公共団体が指名競争入札に参加させようとする者を指名するに当たり、地元 の経済の活性化にも寄与することを考慮して地元企業を優先的に指名することは、 合理的な裁量権の行使として許容される。 イ 地方公共団体が第三セクター法人の事業に関して当該法人の債権者と損失補償契 約を結んだ場合、当該契約の適法性、有効性は、契約締結に係る公益上の必要性に ついての長の判断に裁量権の逸脱、濫用があったか否かによって判断される。 ウ 道路運送法に基づく一般乗用旅客自動車運送事業(いわゆるタクシー事業)の許 可について、その許可基準が抽象的、概括的なものであるとしても、判断に際して 行政庁の専門技術的な知識経験や公益上の判断を必要としないことから、行政庁に 裁量は認められない。 エ 水道法15条1項*にいう「正当の理由」の判断に関して、水道事業者たる地方 公共団体の長が近い将来における水不足が確実に予見されることを理由として給水 契約の締結を拒絶することは、裁量権の逸脱、濫用として違法となる。   ア イ ウ エ 1  正 誤 正 誤 2  誤 正 正 誤 3  正 誤 正 正 4  正 正 誤 誤 5  誤 誤 誤 正 (注)* 水道法15条1項  水道事業者は、事業計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受け たときは、正当の理由がなければ、これを拒んではならない。 問題9 行政の自己拘束に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、誤ってい るものはどれか。 1 事業者に対する行政財産の目的外使用許可が所定の使用期間の途中で撤回された 場合に、撤回を行った行政主体に損失補償の責任が生じるのは、許可に際して損失 補償をする旨の取り決めを行ったときに限られる。 2 行政庁がその裁量に任された事項について、裁量権行使の準則(裁量基準)を定 めることがあっても、このような準則は、行政庁の処分の妥当性を確保するための ものであるから、処分が当該準則に違背して行われたとしても、違背したという理 由だけでは違法とはならない。 3 行政主体が一方的かつ統一的な取扱いの下に国民の重要な権利の行使を違法に妨 げた結果、行政主体に対する債権を消滅時効にかからせた場合、行政主体の側が消 滅時効の主張をすることは許されない。 4 行政主体が公務員の採用内定の取消しを行った場合、内定通知の相手方がその通 知を信頼し、その職員として採用されることを期待して他の就職の機会を放棄する などの準備を行っていたときは、当該行政主体はその者に対して損害賭償の責任を 負うことがある。 5 異議申立てに対する決定等の一定の争訟手続を経て確定した行政庁の法的な決定 については、特別の規定がない限り、関係当事者がこれを争うことができなくなる ことはもとより、行政庁自身もこれを変更することができない。 問題10 公法と私法に関する次の記述のうち、法令または最高裁判所の判例に照らし、正 しいものはどれか。 1 公立病院において行われる診療に関する法律関係は、本質上私法関係と解される ので、公立病院の診療に関する債権の消滅時効は、地方自治法の規定ではなく、民 法の規定に基づいて判断される。 2 一般職の地方公務員については、その勤務関係が公法的規律に服する公法上の関 係であるので、私法的規律である労働三法(労働基準法、労働組合法、労働関係調 整法)はすべて適用されない。 3 地方公共団体が事業者との間で締結する公害防止協定については、公法上の契約 に該当すると解されるので、根拠となる条例の定めがない限り、当該協定に法的拘 束力は生じない。 4 公営住宅の使用関係については、原則として公法関係と解されるので、法令に特 別の定めがない限り、民法の規定は通用されない。 5 国の金銭債権は、私法上のものであっても、その消滅時効については、法令に特 別の定めがない限り、すべて会計法の規定に基づいて判断される。 問題11 行政手続法が定める不利益処分についての規定に関する次の記述のうち、正しい ものはどれか。 1 行政手続法は、不利益処分を行うに当たって弁明の機会を付与する場合を列挙 し、それら列挙する場合に該当しないときには聴聞を行うものと規定しているが、 弁明の機会を付与すべき場合であっても、行政庁の裁量で聴聞を行うことができ る。 2 行政庁が、聴聞を行うに当たっては、不利益処分の名あて人となるべき者に対し て、予定される不利益処分の内容及び根拠法令に加え、不利益処分の原因となる事 実などを通知しなければならないが、聴聞を公正に実施することができないおそれ があると認めるときは、当該処分の原因となる事実を通知しないことができる。 3 不利益処分の名あて人となるべき者として行政庁から聴聞の通知を受けた者は、 代理人を選任することができ、また、聴聞の期日への出頭に代えて、聴聞の主宰者 に対し、聴聞の期日までに陳述書及び証拠書類等を提出することができる。 4 文書閲覧許可や利害関係人の参加許可など、行政庁又は聴聞の主宰者が行政手続 法の聴聞に関する規定に基づいてした処分については、行政不服審査法による不服 申立てをすることができ、また、それら処分を行う際には、行政庁は、そのことを 相手方に教示しなければならない。 5 公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため、行政手続法に定める聴聞又は 弁明の機会の付与の手続を執ることができないときは、これらの手続を執らないで 不利益処分をすることができるが、当該処分を行った後、速やかにこれらの手続を 執らなければならない。 問題12 行政手続法が規定する申請に対する処分に関する次の記述のうち、誤っているも のはどれか。 1 行政庁は、申請がその事務所に到達したときは、遅滞なく当該申請の審査を開始 しなければならない。 2 行政庁は、申請者以外の者の利害を考慮すべきことが要件とされている処分を行 う場合には、それらの者の意見を聴く機会を設けるよう努めなければならない。 3 行政庁は、申請者の求めに応じ、当該申請に係る審査の進行状況および当該申請 に対する処分の時期の見通しを示すよう努めなければならない。 4 行政庁は、申請をしようとする者の求めに応じ、申請書の記載および添付書類に 関する事項その他の申請に必要な情報の提供に努めなければならない。 5 行政庁は、申請者の求めに応じ、申請の処理が標準処理期間を徒過した理由を通 知しなければならない。 問題13 次の文章は、処分の理由の提示のあり方が問題となった事案に関する、最高裁判 所判決の一部である。空欄 [ア]〜[エ] に入る語句の組合せとして、正しいもの はどれか。 「行政手続法14条1項本文が、 [ア] をする場合に同時にその理由を [イ] に示さ なければならないとしているのは、 [イ] に直接に義務を課し又はその権利を制限す るという [ア] の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑 制するとともに、処分の理由を [イ] に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に 出たものと解される。そして、同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきか は、上記のような同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処 分に係る [ウ] の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処 分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである。(中略) 建築士に対する上記懲戒処分については、処分内容の決定に関し、本件 [ウ] が定め られているところ、本件 [ウ] は、 [エ] の手続を経るなど適正を担保すべき手厚い 手続を経た上で定められて公にされており、しかも、その内容は……多様な事例に対 応すべくかなり複雑なものとなっている。そうすると、建築士に対する上記懲戒処分 に際して同時に示されるべき理由としては、処分の原因となる事実及び処分の根拠法 条に加えて、本件 [ウ] の適用関係が示されなければ、処分の [イ] において、上記 事実及び根拠法条の提示によって処分要件の該当性に係る理由は知り得るとしても、 いかなる理由に基づいてどのような [ウ] の適用によって当該処分が選択されたのか を知ることは困難であるのが通例であると考えられる。」                  (最三小判平成23年6月7日民集65巻4号2081頁)     ア        イ      ウ     エ 1 申請に対する処分  利害関係人  審査基準  聴聞 2 不利益処分     名宛人    審査基準  聴聞 3 申請に対する処分  利害関係人  処分基準  意見公募 4 不利益処分     利害関係人  処分基準  聴聞 5 不利益処分     名宛人    処分基準  意見公募 問題14 行政不服審査法(以下「行審法」という。)と行政事件訴訟法(以下「行訴法」 という。)の比較に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。 1 行訴法は、行政庁が処分をすべき旨を命ずることを求める訴訟として「義務付け の訴え」を設けているが、行審法は、このような義務付けを求める不服申立てを明 示的には定めていない。 2 行審法は、同法にいう処分には公権力の行使に当たる事実上の行為で継続的性質 を有するものが含まれると定めているが、行訴法は、このような行為が処分に当た るとは明示的には定めていない。 3 行訴法は、取消訴訟の原告適格を処分等の取消しを求めるにつき「法律上の利益 を有する者」に認めているが、行審法は、このような者に不服申立て適格が認めら れることを明示的には定めていない。 4 行訴法は、訴訟の結果により権利を害される第三者の訴訟参加に関する規定を置 いているが、行審法は、利害関係人の不服申立てへの参加について明示的には定め ていない。 5 行訴法は、取消訴訟における取消しの理由の制限として、自己の法律上の利益に 関係のない違法を理由とすることはできないと定めているが、行審法は、このよう な理由の制限を明示的には定めていない。 問題15 行政不服審査に関する原則の説明として、誤っているものはどれか。 1 自由選択主義 ―――― 不作為について、異議申立てと直近上級行政庁に対              する審査請求のいずれをするかは、原則として、当事              者の自由な選択に委ねられていること 2 処分権主義 ――――― 私人からの不服申立てがなくとも、行政庁が職権で              審理を開始することができること 3 審査請求中心主義 ―― 処分について、審査請求ができる場合には、法律に              特別の定めがないかぎり、異議申立てを認めないとす              ること 4 一般概括主義 ―――― 適用除外規定に該当する処分を除き、原則として全              ての処分について異議申立て又は審査請求が可能なこと 5 書面審理主義 ―――― 不服申立ての審理は、書面によることを原則として              いること 問題16 いわゆる申請型と非申請型(直接型)の義務付け訴訟について、行政事件訴訟法 の規定に照らし、妥当な記述はどれか。 1 申請型と非申請型の義務付け訴訟いずれにおいても、一定の処分がされないこと により「重大な損害を生ずるおそれ」がある場合に限り提起できることとされてい る。 2 申請型と非申請型の義務付け訴訟いずれにおいても、一定の処分をすべき旨を行 政庁に命ずることを求めるにつき「法律上の利益を有する者」であれば、当該処分 の相手方以外でも提起することができることとされている。 3 申請型と非申請型の義務付け訴訟いずれにおいても、一定の処分がされないこと による損害を避けるため「他に適当な方法がないとき」に限り提起できることとさ れている。 4 申請型と非申請型の義務付け訴訟いずれにおいても、「償うことのできない損害 を避けるため緊急の必要がある」ことなどの要件を満たせば、裁判所は、申立てに より、仮の義務付けを命ずることができることとされている。 5 申請型と非申請型の義務付け訴訟いずれにおいても、それと併合して提起すべき こととされている処分取消訴訟などに係る請求に「理由がある」と認められたとき にのみ、義務付けの請求も認容されることとされている。 問題17 A電力株式会社は、新たな原子力発電所の設置を計画し、これについて、国(原 子力規制委員会)による原子炉等規制法*に基づく原子炉の設置許可を得て、その 建設に着手した。これに対して、予定地の周辺に居住するXらは、重大事故による 健康被害などを危惧して、その操業を阻止すべく、訴訟の提起を検討している。こ の場合の訴訟について、最高裁判所の判例に照らし、妥当な記述はどれか。 1 当該原子炉の設置については、原子炉等規制法に基づく許可がなされている以 上、Xらは、国を被告とする許可の取消訴訟で争うべきであり、Aを被告とする民 事訴訟によってその操業の差止めなどを請求することは許されない。 2 事故により生命身体の安全に直截的かつ重大な被害を受けることが想定される地 域にXらが居住していたとしても、そうした事故発生の具体的な蓋然性が立証され なければ、原子炉設置許可の取消しを求めて出訴するXらの原告適格は認められな い。 3 原子炉設置許可の取消訴訟の係属中に原子炉の安全性についての新たな科学的知 見が明らかになった場合には、こうした知見が許可処分当時には存在しなかったと しても、裁判所は、こうした新たな知見に基づいて原子炉の安全性を判断すること が許される。 4 原子炉の安全性の審査は、極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づい てなされるものであるから、そうした審査のために各分野の学識経験者等が作成し た具体的な審査基準については、その合理性を裁判所が判断することは許されな い。 5 原子炉設置許可は、申請された計画上の原子炉の安全性を確認するにすぎず、実 際に稼働している原子炉が計画どおりの安全性を有しているか否かは許可の有無と は無関係であるから、工事が完了して原子炉が稼働すれば、許可取消訴訟の訴えの 利益は失われる。 (注)* 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律 問題18 取消訴訟に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。 1 取消訴訟の原告は、処分行政庁に訴状を提出することにより、処分行政庁を経由 しても訴訟を提起することができる。 2 裁判所は、必要があると認めるときは、職権で証拠調べをすることができるが、 その結果について当事者の意見をきかなければならない。 3 取消訴訟の訴訟代理人については、代理人として選任する旨の書面による証明が あれば誰でも訴訟代理人になることができ、弁護士等の資格は必要とされない。 4 裁判所は、処分の執行停止の必要があると認めるときは、職権で、処分の効力、 処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止をすることができる。 5 取消訴訟の審理は、書面によることが原則であり、当事者から口頭弁論の求めが あったときに限り、その機会を与えるものとされている。 問題19 国の損害賠償責任についての国家賠償法と民法の適用関係に関する次の記述のう ち、誤っているものはどれか。 1 公権力の行使に該当しない公務員の活動に起因する国の損害賠償責任について は、民法の規定が適用される。 2 公権力の行使に起因する損害の賠償責任については、国家賠償法に規定がない事 項に関し、民法の規定が適用される。 3 公の営造物に該当しない国有財産の瑕疵に起因する損害の賠償責任については、 民法の規定が適用される。 4 国が占有者である公の営造物の瑕疵に起因する損害の賠償責任については、必要 な注意義務を国が尽くした場合の占有者としての免責に関し、民法の規定が適用さ れる。 5 公権力の行使に起因する損害についても、公の営造物の瑕疵に起因する損害につ いても、損害賠償請求権の消滅時効に関しては、民法の規定が適用される。 問題20 国家賠償法に関する次のア〜オの記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正し いものの組合せはどれか。 ア 経済政策の決定の当否は裁判所の司法的判断には本質的に適しないから、経済政 策ないし経済見通しの過誤を理由とする国家賠償法1条に基づく請求は、そもそも 法律上の争訟に当たらず、不適法な訴えとして却下される。 イ 税務署長が行った所得税の更正が、所得金額を過大に認定したものであるとして 取消訴訟で取り消されたとしても、当該税務署長が資料を収集し、これに基づき課 税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くし ていた場合は、国家賠償法1条1項の適用上違法とはされない。 ウ 刑事事件において無罪の判決が確定した以上、当該公訴の提起・追行は国家賠償 法1条の適用上も直ちに違法と評価されるが、国家賠償請求が認容されるために は、担当検察官に過失があったか否かが別途問題となる。 エ 自作農創設特別措置法に基づく買収計画が違法であることを理由として国家賠償 の請求をするについては、あらかじめ当該買収計画につき取消し又は無効確認の判 決を得る必要はない。 オ 違法な課税処分によって本来払うべきでない税金を支払った場合において、過納 金相当額を損害とする国家賠償請求訴訟を提起したとしても、かかる訴えは課税処 分の公定力や不可争力を実質的に否定することになるので棄却される。 1 ア・ウ 2 ア・オ 3 イ・エ 4 イ・オ 5 ウ・エ 問題21 地方自治法の規定による住民監査請求と事務監査請求の相違について、妥当な記 述はどれか。 1 住民監査請求をすることができる者は、当該地方公共団体の住民のみに限られて いるが、事務監査請求については、当該事務の執行に特別の利害関係を有する者で あれば、当該地方公共団体の住民以外でもすることができることとされている。 2 住民監査請求については、対象となる行為があった日または終わった日から一定 期間を経過したときは、正当な理由がある場合を除き、これをすることができない こととされているが、事務監査請求については、このような請求期間の制限はな い。 3 住民監査請求の対象となるのは、いわゆる財務会計上の行為または怠る事実であ るとされているが、こうした行為または怠る事実は、事務監査請求の対象となる当 該地方公共団体の事務から除外されている。 4 住民監査請求においては、その請求方式は、当該行為の一部または全部の差止の 請求などの4種類に限定されており、それ以外の請求方式は認められていないが、 事務監査請求については、このような請求方式の制限はない。 5 住民監査請求においては、監査の結果に不服のある請求者は、住民訴訟を提起す ることができることとされているが、事務監査請求においては、監査の結果に不服 のある請求者は、監査結果の取消しの訴えを提起できることとされている。 問題22 A市においては、地域の生活環境の整備を図るために、繁華街での路上喫煙を禁 止し、違反者には最高20万円の罰金もしくは最高5万円の過料のいずれかを科す ることを定めた条例を制定した。この場合における次の記述のうち、正しいものは どれか。 1 違反者に科される過料は、行政上の義務履行確保のための執行罰に当たるもので あり、義務が履行されるまで複数回科すことができる。 2 本条例に基づく罰金は、行政刑罰に当たるものであり、非訟事件手続法の定めに 基づき裁判所がこれを科する。 3 条例の効力は属人的なものであるので、A市の住民以外の者については、たとえ A市域内の繁華街で路上喫煙に及んだとしても、本条例に基づき処罰することはで きない。 4 条例に懲役刑を科する旨の規定を置くことは許されていないことから、仮に本条 例が違反者に対して懲役を科するものであれば、違法無効になる。 5 長の定める規則に罰金を科する旨の規定を置くことは認められていないことか ら、本条例にかえて長の規則で違反者に罰金を科することは許されない。 問題23 地方自治法の定める地方公共団体に関する次の記述のうち、誤っているものはど れか。 1 地方公共団体の組合としては、全部事務組合と役場組合が廃止されたため、現在 では一部事務組合と広域連合の二つがある。 2 国と地方公共団体間の紛争等を処理する機関としては、自治紛争処理委員が廃止 され、代わりに国地方係争処理委員会が設けられている。 3 大都市等に関する特例としては、指定都市、中核市、特例市の三つに関するもの が設けられている。 4 条例による事務処理の特例としては、都道府県知事の権限に属する事務の一部を 条例に基づき市町村に委ねることが許されている。 5 特別地方公共団体である特別区としては、都に置かれる区のみがあり、固有の法 人格を有する。 問題24 住所に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。争いがある場合には、 最高裁判所の判例による。 1 日本国民たる年齢満20歳以上の者で引き続き一定期間以上市町村の区域内に住 所を有するものは、その属する普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有 する。 2 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、地方自治法の定めにより、条例の制定 又は改廃を請求する権利を有するが、日本国籍を有しない者であっても、そこに住 所を有していれば、こうした権利を有する。 3 公職選挙法上の住所とは、各人の生活の本拠、すなわち、その人の生活に最も関 係の深い一般的生活、全生活の中心を指す。 4 都市公園内に不法に設置されたテントを起居の場所としている場合、テントにお いて日常生活を営んでいる者は、テントの所在地に住所を有するということはでき ない。 5 地方自治法に基づく住民訴訟は、当該地方公共団体内に住所を有する者のみが提 起することができ、訴訟係属中に原告が当該地方公共団体内の住所を失えば、原告 適格を失う。 問題25 国家行政組織法に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。 1 国家行政組織法に基づいて行政組織のため置かれる国の行政機関は、省、委員会 および庁であるが、その設置および廃止は、別に政令の定めるところによる。 2 独立行政法人は、国家行政組織法の定める「特別の機関」の一つであり、その設 置は国家行政組織法の別表に掲げるところによる。 3 国家行政組織法に基づいて、各省には、各省大臣の下に副大臣および大臣政務官 の他、大臣を助け、省務を整理し、各部局および機関の事務を監督する職として事 務次官が置かれる。 4 各省大臣は、主任の行政事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は 法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、それぞれの機関の命令を発することが できるが、国家行政組織法において、これを「訓令」又は「通達」という。 5 人事院や会計検査院は、国家行政組織法において、「国の行政機関」として位置 づけられ、その具体的組織は、それぞれ国家公務員法や会計検査院法によって定め られる。 問題26 国家公務員に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。 1 国家公務員法は、公務員の職を一般職と特別職とに分けているが、同法は、法律 に別段の定めがない限り、特別職の職員には適用されない。 2 懲戒処分は、任命権者が行うこととされており、懲戒処分を受けた公務員は、当 該懲戒処分に不服があるときは、当該懲戒処分を行った任命権者に対して異議申立 てをすることができる。 3 人事院はその所掌事務について、法律を実施するため、又は法律の委任に基づい て、人事院規則を制定することができるが、内閣の所轄の下に置かれる機関である ため、その案について事前に閣議を経なければならない。 4 懲戒に付せらるべき事件が、刑事裁判所に係属する間においては、任命権者は、 同一事件について、懲戒手続を進めることができない。 5 公務員の懲戒処分には、行政手続法の定める不利益処分の規定が適用されるの で、これを行うに当たっては、行政手続法の定める聴聞を行わなければならない。 問題27 錯誤による意思表示に関する次のア〜オの記述のうち、民法の規定および判例に 照らし、妥当なものの組合せはどれか。 ア 法律行為の要素に関する錯誤というためには、一般取引の通念にかかわりなく、 当該表意者のみにとって、法律行為の主要部分につき錯誤がなければ当該意思表示 をしなかったであろうということが認められれば足りる。 イ 法律行為の相手方の誤認(人違い)の錯誤については、売買においては法律行為 の要素の錯誤となるが、賃貸借や委任においては法律行為の要素の錯誤とはならな い。 ウ 動機の錯誤については、表意者が相手方にその動機を意思表示の内容に加えるも のとして明示的に表示したときは法律行為の要素の錯誤となるが、動機が黙示的に 表示されるにとどまるときは法律行為の要素の錯誤となることはない。 エ 表意者が錯誤による意思表示の無効を主張しないときは、相手方または第三者は 無効の主張をすることはできないが、第三者が表意者に対する債権を保全する必要 がある場合において、表意者が意思表示の瑕疵を認めたときは、第三者たる債権者 は債務者たる表意者の意思表示の錯誤による無効を主張することができる。 オ 表意者が錯誤に陥ったことについて重大な過失があったときは、表意者は、自ら 意思表示の無効を主張することができない。この場合には、相手方が、表意者に重 大な過失があったことについて主張・立証しなければならない。 1 ア・イ 2 ア・ウ 3 イ・エ 4 ウ・オ 5 エ・オ 問題28 不動産の取得時効と登記に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照ら し、妥当なものはどれか。 1 不動産の取得時効の完成後、占有者が登記をしないうちに、その不動産につき第 三者のために抵当権設定登記がなされた場合であっても、その占有者が、その後さ らに時効取得に必要な期間、占有を継続したときは、特段の事情がない限り、占有 者はその不動産を時効により取得し、その結果、抵当権は消滅する。 2 不動産を時効により取得した占有者は、取得時効が完成する前に当該不動産を譲 り受けた者に対して、登記がなければ時効取得をもって対抗することができない。 3 不動産を時効により取得した占有者は、取得時効が完成した後に当該不動産を譲 り受けた者に対して、登記がなければ時効取得をもって対抗することができず、こ のことは、その占有者が、その後さらに時効取得に必要な期間、占有を継続したと しても、特段の事情がない限り、異ならない。 4 不動産の取得時効の完成後、占有者が、その時効が完成した後に当該不動産を譲 り受けた者に対して時効を主張するにあたり、起算点を自由に選択して取得時効を 援用することは妨げられない。 5 不動産を時効により取得した占有者は、取得時効が完成した後にその不動産を譲 り受けて登記をした者に対して、その譲受人が背信的悪意者であるときには、登記 がなくても時効取得をもって対抗することができるが、その譲受人が背信的悪意者 であると認められるためには、同人が当該不動産を譲り受けた時点において、少な くとも、その占有者が取得時効の成立に必要な要件を充足していることについて認 識していたことを要する。 問題29 Aが自己所有の事務機器甲(以下、「甲」という。)をBに売却する旨の売買契約 (以下、「本件売買契約」という。)が締結されたが、BはAに対して売買代金を支 払わないうちに甲をCに転売してしまった。この場合に関する次の記述のうち、民 法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。 1 Aが甲をすでにBに引き渡しており、さらにBがこれをCに引き渡した場合で あっても、Aは、Bから売買代金の支払いを受けていないときは、甲につき先取特 権を行使することができる。 2 Aが甲をまだBに引き渡していない場合において、CがAに対して所有権に基づ いてその引渡しを求めたとき、Aは、Bから売買代金の支払いを受けていないとき は、同時履行の抗弁権を行使してこれを拒むことができる。 3 本件売買契約において所有権留保特約が存在し、AがBから売買代金の支払いを 受けていない場合であったとしても、それらのことは、Cが甲の所有権を承継取得 することを何ら妨げるものではない。 4 Aが甲をまだBに引き渡していない場合において、CがAに対して所有権に基づ いてその引渡しを求めたとき、Aは、Bから売買代金の支払いを受けていないとき は、留置権を行使してこれを拒むことができる。 5 Aが甲をまだBに引き渡していない場合において、Bが売買代金を支払わないこ とを理由にAが本件売買契約を解除(債務不履行解除)したとしても、Aは、Cか らの所有権に基づく甲の引渡請求を拒むことはできない。 問題30 詐害行為取消権に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当 なものはどれか。 1 遺産分割協議は、共同相続人の間で相続財産の帰属を確定させる行為であるが、 相続人の意思を尊重すべき身分行為であり、詐害行為取消権の対象となる財産権を 目的とする法律行為にはあたらない。 2 相続放棄は、責任財産を積極的に減少させる行為ではなく、消極的にその増加を 妨げる行為にすぎず、また、相続放棄は、身分行為であるから、他人の意思によっ て強制されるべきではないので、詐害行為取消権行使の対象とならない。 3 離婚における財産分与は、身分行為にともなうものではあるが、財産権を目的と する法律行為であるから、財産分与が配偶者の生活維持のためやむをえないと認め られるなど特段の事情がない限り、詐害行為取消権の対象となる。 4 詐害行為取消権は、総ての債権者の利益のために債務者の責任財産を保全する目 的において行使されるべき権利であるから、債権者が複数存在するときは、取消債 権者は、総債権者の総債権額のうち自己が配当により弁済を受けるべき割合額での み取り消すことができる。 5 詐害行為取消権は、総ての債権者の利益のために債務者の責任財産を保全する目 的において行使されるべき権利であるから、取消しに基づいて返還すべき財産が金 銭である場合に、取消債権者は受益者に対して直接自己への引渡しを求めることは できない。 問題31 契約の解除に関する次のア〜オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、 妥当なものの組合せはどれか。 ア Aが、その所有する建物をBに売却する契約を締結したが、その後、引渡しまで の間にAの火の不始末により当該建物が焼失した。Bは、引渡し期日が到来した後 でなければ、当該売買契約を解除することができない。 イ Aが、その所有する建物をBに売却する契約を締結したが、その後、引渡し期日 が到来してもAはBに建物を引き渡していない。Bが、期間を定めずに催告した場 合、Bは改めて相当の期間を定めて催告をしなければ、当該売買契約を解除するこ とはできない。 ウ AとBが、その共有する建物をCに売却する契約を締結したが、その後、AとB は、引渡し期日が到来してもCに建物を引き渡していない。Cが、当該売買契約を 解除するためには、Aに対してのみ解除の意思表示をするのでは足りない。 エ Aが、その所有する土地をBに売却する契約を締結し、その後、Bが、この土地 をCに転売した。Bが、代金を支払わないため、Aが、A・B間の売買契約を解除 した場合、C名義への移転登記が完了しているか否かに関わらず、Cは、この土地 の所有権を主張することができる。 オ Aが、B所有の自動車をCに売却する契約を締結し、Cが、使用していたが、そ の後、Bが、所有権に基づいてこの自動車をCから回収したため、Cは、A・C間 の売買契約を解除した。この場合、Cは、Aに対しこの自動車の使用利益(相当 額)を返還する義務を負う。 1 ア・エ 2 イ・ウ 3 イ・オ 4 ウ・エ 5 ウ・オ 問題32 Aは、B所有の甲土地上に乙建物を建てて保存登記をし、乙建物をCが使用して いる。この場合に関する次のア〜オの記述のうち、民法の規定および判例に照ら し、誤っているものはいくつあるか。 ア Aが、甲土地についての正当な権原に基づかないで乙建物を建て、Cとの間の建 物賃貸借契約に基づいて乙建物をCに使用させている場合に、乙建物建築後20年 が経過したときには、Cは、Bに対して甲土地にかかるAの取得時効を援用するこ とができる。 イ Aが、Bとの間の土地賃貸借契約に基づいて乙建物を建て、Cとの間の建物賃貸 借契約に基づいてCに乙建物を使用させている場合、乙建物の所有権をAから譲り 受けたBは、乙建物についての移転登記をしないときは、Cに対して乙建物の賃料 を請求することはできない。 ウ Aが、Bとの間の土地賃貸借契約に基づいて乙建物を建て、Cとの間の建物賃貸 借契約に基づいてCに乙建物を使用させている場合、Cは、Aに無断で甲土地の賃 料をBに対して支払うことはできない。 エ Aが、Bとの間の土地賃貸借契約に基づいて乙建物を建てている場合、Aが、C に対して乙建物を売却するためには、特段の事情のない限り、甲土地にかかる賃借 権を譲渡することについてBの承諾を得る必要がある。 オ Aが、Bとの間の土地賃貸借契約に基づいて乙建物を建て、Cとの間の建物賃貸 借契約に基づいてCに乙建物を使用させている場合、A・B間で当該土地賃貸借契 約を合意解除したとしても、特段の事情のない限り、Bは、Cに対して建物の明渡 しを求めることはできない。 1 一つ 2 二つ 3 三つ 4 四つ 5 五つ 問題33 A、B、C、D、Eの5人が、各自で出資をして共同の事業を営むことを約して 組合を設立した場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、正 しいものはどれか。 1 Aは、組合の常務について単独で行うことはできず、総組合員の過半数の賛成が 必要であるから、Aのほか2人以上の組合員の賛成を得た上で行わなければならな い。 2 組合契約でA、B、Cの3人を業務執行者とした場合には、組合の業務の執行 は、A、B、C全員の合意で決しなければならず、AとBだけの合意では決するこ とはできない。 3 組合契約で組合の存続期間を定めない場合に、Aは、やむを得ない事由があって も、組合に不利な時期に脱退することはできない。 4 やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約がある場合に、 Aは、適任者を推薦しない限り当該組合を脱退することはできない。 5 組合財産に属する特定の不動産について、第三者が不法な保存登記をした場合 に、Aは、単独で当該第三者に対して抹消登記請求をすることができる。 問題34 Aは、配偶者がいるにもかかわらず、配偶者以外のBと不倫関係にあり、その関 係を維持する目的で、A所有の甲建物をBに贈与した。この場合に関する次の記述 のうち、民法の規定および判例に照らし、正しいものはどれか。 1 甲建物がAからBに引き渡されていない場合に、A・B間の贈与が書面によって なされたときには、Aは、Bからの引渡請求を拒むことはできない。 2 甲建物が未登記建物である場合において、Aが甲建物をBに引き渡したときに は、Aは、Bに対して甲建物の返還を請求することはできない。 3 甲建物が未登記建物である場合において、Aが甲建物をBに引き渡した後に同建 物についてA名義の保存登記をしたときには、Aは、Bに対して甲建物の返還を請 求することができる。 4 A名義の登記がなされた甲建物がBに引き渡されたときには、Aは、Bからの甲 建物についての移転登記請求を拒むことはできない。 5 贈与契約のいきさつにおいて、Aの不法性がBの不法性に比してきわめて微弱な ものであっても、Aが未登記建物である甲建物をBに引き渡したときには、Aは、 Bに対して甲建物の返還を請求することはできない。 問題35 婚姻および離婚に関する次のア〜オの記述のうち、民法の規定に照らし、正しい ものの組合せはどれか。 ア 未成年者が婚姻をするには、父母のいずれかの同意があれば足り、父母ともにい ない未成年者の場合には、家庭裁判所の許可をもってこれに代えることができる。 イ 未成年者が婚姻をしたときは、成年に達したものとみなされる。したがって当該 未成年者は、法定代理人の同意がなくても単独で法律行為をすることができ、これ は当該未成年者が離婚をした後であっても同様である。 ウ 養親子関係にあった者どうしが婚姻をしようとする場合、離縁により養子縁組を 解消することによって、婚姻をすることができる。 エ 離婚をした場合には、配偶者の親族との間にあった親族関係は当然に終了する が、夫婦の一方が死亡した場合には、生存配偶者と死亡した配偶者の親族との間に あった親族関係は、当然には終了しない。 オ 協議離婚をしようとする夫婦に未成年の子がある場合においては、協議の上、家 庭裁判所の許可を得て、第三者を親権者とすることを定めることができる。 1 ア・イ 2 ア・ウ 3 ア・オ 4 イ・ウ 5 イ・エ 問題36 商法の定める契約に関する次のA〜Cの文章の空欄 [ア]〜[ウ] に当てはまる 語句の組合せとして、商法の規定に照らし、正しいものはどれか。 A 商人である対話者の間において契約の申込みを受けた者が [ア] 承諾をしなかっ たときは、その申込みは、効力を失う。 B 商人である隔地者の間において承諾の期間を定めないで契約の申込みを受けた者 が [イ] 承諾の通知を発しなかったときは、その申込みは、効力を失う。 C 商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けた場合 において、遅滞なく契約の申込みに対する諾否の通知を発することを怠ったとき は、その商人は当該契約の申込みを [ウ] ものとみなされる。    ア        イ        ウ 1 直ちに      相当の期間内に  拒絶した 2 相当の期間内に  遅滞なく     拒絶した 3 直ちに      相当の期間内に  承諾した 4 遅滞なく     遅滞なく     拒絶した 5 相当の期間内に  相当の期間内に  承諾した 問題37 取締役会設置会社が、その発行する全部の株式の内容として、譲渡による株式の 取得について当該会社の承認を要する旨を定める場合(以下、譲渡制限とはこの場 合をいう。)に関する次のア〜オの記述のうち、会社法の規定に照らし、正しいも のの組合せはどれか。 ア 会社が譲渡制限をしようとするときは、株主総会の決議により定款を変更しなけ ればならず、この定款変更の決議は、通常の定款変更の場合の特別決議と同じく、 定款に別段の定めがない限り、議決権を行使することができる株主の議決権の過半 数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の多数をもっ て行われる。 イ 譲渡制限の定めのある株式を他人に譲り渡そうとする株主は、譲渡による株式の 取得について承認をするか否かの決定をすることを会社に対して請求できるが、こ の請求は、利害関係人の利益を害するおそれがない場合を除き、当該株式を譲り受 ける者と共同して行わなければならない。 ウ 譲渡制限の定めのある株式の譲渡による取得について承認をするか否かの決定を することを請求された会社が、この請求の日から2週間(これを下回る期間を定款 で定めた場合はその期間)以内に譲渡等の承認請求をした者に対して当該決定の内 容について通知をしなかった場合は、当該会社と譲渡等の承認請求をした者との合 意により別段の定めをしたときを除き、承認の決定があったものとみなされる。 エ 譲渡制限の定めのある株式の譲渡による取得を承認しない旨の決定をした会社 は、対象となる株式の全部または一部を買い取る者を指定することができ、この指 定は定款に別段の定めがない限り、取締役会の決議によって行う。 オ 譲渡制限の定めのある株式の譲渡による取得を承認しない旨の決定をした会社が 当該株式を買い取る場合は、対象となる株式を買い取る旨、および会社が買い取る 株式の数について、取締役会の決議により決定する。 1 ア・イ 2 ア・ウ 3 イ・オ 4 ウ・エ 5 エ・オ 問題38 会社法上の公開会社(委員会設置会社を除く。)における株主総会の決議に関す る次の記述のうち、会社法の規定および判例に照らし、株主総会の決議無効確認の 訴えにおいて無効原因となるものはどれか。なお、定款に別段の定めはないものと する。 1 株主総会の招集手続が一切なされなかったが、株主が全員出席した総会におい て、取締役の資格を当該株式会社の株主に限定する旨の定款変更決議がなされた場 合 2 代表権のない取締役が取締役会の決議に基づかずに招集した株主総会において、 当該事業年度の計算書類を承認する決議がなされた場合 3 取締役の任期を、選任後1年以内に終了する事業年度に関する定時株主総会の終 結の時までとする株主総会決議がなされた場合 4 株主に代わって株主総会に出席して議決権を代理行使する者を、当該株式会社の 株主に限定する旨の定款変更決議がなされた場合 5 特定の株主が保有する株式を当該株式会社が取得することを承認するための株主 総会に、当該株主が出席して議決権を行使し決議がなされた場合 問題39 取締役会設置会社(委員会設置会社を除く。)と取締役との間の取引等に関する 次のア〜オの記述のうち、会社法の規定に照らし、妥当でないものはいくつある か。 ア 取締役が自己または第三者のために会社と取引をしようとするときには、その取 引について重要な事実を開示して、取締役会の承認を受けなければならない。 イ 取締役が会社から受ける報酬等の額、報酬等の具体的な算定方法または報酬等の 具体的な内容については、定款に当該事項の定めがある場合を除き、会社の業務執 行に係る事項として取締役会の決定で足り、株主総会の決議は要しない。 ウ 会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において会社と 当該取締役との利益が相反する取引をしようとするときには、その取引について重 要な事実を開示して、取締役会の承認を受けなければならない。 エ 取締役が会社に対し、または会社が取締役に対して訴えを提起する場合には、監 査役設置会社においては監査役が会社を代表し、監査役設置会社でない会社におい ては会計参与が会社を代表する。 オ 取締役が自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとす るときには、その取引について重要な事実を開示して、取締役会の承認を受けなけ ればならない。 1 一つ 2 二つ 3 三つ 4 四つ 5 五つ 問題40 会社法上の公開会社における資金調達に関する次の記述のうち、会社法の規定に 照らし、正しいものはどれか。 1 特定の者を引受人として募集株式を発行する場合には、払込金額の多寡を問わ ず、募集事項の決定は、株主総会の決議によらなければならない。 2 株主に株式の割当てを受ける権利を与えて募集株式を発行する場合には、募集事 項の通知は、公告をもってこれに代えることができる。 3 募集株式一株と引換えに払い込む金額については、募集事項の決定時に、確定し た額を決定しなければならない。 4 会社が委員会設置会社である場合には、取締役会決議により、多額の借入れの決 定権限を執行役に委任することができる。 5 募集社債の払込金額が募集社債を引き受ける者に特に有利な金額である場合に は、株主総会の決議によらなければならない。 [ 問題41〜問題43は択一式(多肢選択式) ] 問題41 次の文章は、ある最高裁判所判決の一節(一部を省略)である。空欄 [ア]〜 [エ] に当てはまる語句を、枠内の選択肢(1〜20)から選びなさい。  確かに、 [ア] は、民主主義社会において特に重要な権利として尊重されなければ ならず、被告人らによるその政治的意見を記載したビラの配布は、 [ア] の行使とい うことができる。しかしながら、……憲法21条1項も、 [ア] を絶対無制限に保障し たものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであって、 たとえ思想を外部に発表するための手段であっても、その手段が他人の権利を不当に 害するようなものは許されないというべきである。本件では、 [イ] を処罰すること の憲法適合性が問われているのではなく、 [ウ] すなわちビラの配布のために「人の 看守する邸宅」に [エ] 権者の承諾なく立ち入ったことを処罰することの憲法適合性 が問われているところ、本件で被告人らが立ち入った場所は、防衛庁の職員及びその 家族が私的生活を営む場所である集合住宅の共用部分及びその敷地であり、自衛隊・ 防衛庁当局がそのような場所として [エ] していたもので、一般に人が自由に出入り することのできる場所ではない。たとえ [ア] の行使のためとはいっても、このよう な場所に [エ] 権者の意思に反して立ち入ることは、 [エ] 権者の [エ] 権を侵害す るのみならず、そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害するものといわざるを 得ない。                  (最二小判平成20年4月11日刑集62巻5号1217頁) 1  出版の自由    2  統治     3  集会の手段  4  良心そのもの 5  出版それ自体   6  良心の自由  7  管理     8  居住の手段 9  居住・移転の自由 10 表現の自由  11 集会それ自体 12 良心の表出 13 支配       14 集会の自由  15 出版の手段  16 居住 17 表現の手段    18 居住それ自体 19 所有     20 表現そのもの 問題42 次の文章の空欄 [ア]〜[エ] に当てはまる語句を、枠内の選択肢(1〜20)か ら選びなさい。  行政上の義務違反に対し、一般統治権に基づいて、制裁として科される罰を [ア] という。 [ア] は、過去の義務違反に対する制裁である。   [ア] には、行政上の義務違反に対し科される刑法に刑名のある罰と、行政上の義 務違反ではあるが、軽微な形式的違反行為に対して科される行政上の [イ] とがあ る。 [イ] は、 [ウ] という名称により科される。普通地方公共団体も、法律に特別の 定めがあるものを除くほか、その条例中に [ウ] を科す旨の規定を設けることができ る。 [ウ] を科す手続については、法律上の義務違反に対するものと、条例上の義務 違反に対するものとで相違がある。条例上の義務違反に対して普通地方公共団体の長 が科す [ウ] は、 [エ] に定める手続により科される。 1  強制執行    2  科料      3  強制徴収 4  過料 5  行政事件訴訟法 6  禁錮      7  行政罰  8  執行罰 9  即時強制    10 非訟事件手続法 11 直接強制 12 地方自治法 13 行政刑罰    14 代執行     15 課徴金  16 刑事訴訟法 17 罰金      18 懲戒罰     19 秩序罰  20 行政手続法 問題43 次の文章は、インターネットを通じて郵便等の方法で医薬品を販売すること(以 下「インターネット販売」と略する)を禁止することの是非が争われた判決の一節 である(一部を省略してある)。空欄 [ア]〜[エ] に当てはまる語句を、枠内の 選択肢(1〜20)から選びなさい。  「本件地位確認の訴え*は、 [ア] のうちの公法上の法律関係に関する確認の訴えと 解することができるところ、原告らは、改正省令の施行前は、一般販売業の許可を受 けた者として、郵便等販売の方法の一態様としてのインターネット販売により一般用 医薬品の販売を行うことができ、現にこれを行っていたが、改正省令の施行後は、本 件各規定の通用を受ける結果として、第一類・第二類医薬品についてはこれを行うこ とができなくなったものであり、この規制は [イ] に係る事業者の権利の制限であっ て、その権利の性質等にかんがみると、原告らが、本件各規定にかかわらず、第一 類・第二類医薬品につき郵便等販売の方法による販売をすることができる地位の確認 を求める訴えについては、……本件改正規定の [ウ] 性が認められない以上、本件規 制をめぐる法的な紛争の解決のために有効かつ適切な手段として、 [エ] を肯定すべ きであり、また、単に抽象的・一般的な省令の適法性・憲法適合性の確認を求めるの ではなく、省令の個別的な適用対象とされる原告らの具体的な法的地位の確認を求め るものである以上、この訴えの法律上の争訟性についてもこれを肯定することができ ると解するのが相当である(なお、本件改正規定の適法性・憲法適合性を争うために は、本件各規定に違反する態様での事業活動を行い、業務停止処分や許可取消処分を 受けた上で、それらの [ウ] の抗告訴訟において上記適法性・憲法適合性を争点とす ることによっても可能であるが、そのような方法は [イ] に係る事業者の法的利益の 救済手続の在り方として迂遠であるといわざるを得ず、本件改正規定の適法性・憲法 適合性につき、上記のような [ウ] を経なければ裁判上争うことができないとするの は相当ではないと解される。)。  したがって、本件地位確認の訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴えとし て、 [エ] が肯定され、法律上の争訟性も肯定されるというべきであり、本件地位確 認の訴えは適法な訴えであるということができる。」                 (東京地判平成22年3月30日判例時報2096号9頁) (注)* 第一類医薬品及び第二類医薬品につき店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他 の方法による販売をすることができる権利(地位)を有することの確認を求める訴え 1  訓令        2  表現の自由   3  民事訴訟 4  重大かつ明白な瑕疵 5  精神的自由   6  委任命令 7  公法上の当事者訴訟 8  行政権の不作為 9  裁量の逸脱又は濫用 10 原告適格      11 抗告訴訟    12 狭義の訴えの利益 13 補充性       14 行政指導    15 営業の自由 16 国家賠償訴訟    17 既得権     18 確認の利益 19 通信の秘密     20 行政処分 [ 問題44〜問題46は記述式 ] 解答は、必ず答案用紙裏面の解答欄(マス目)に記述す               ること。なお、字数には、句読点も含む。 問題44 Aが建築基準法に基づく建築確認を得て自己の所有地に建物を建設し始めたとこ ろ、隣接地に居住するBは、当該建築確認の取消しを求めて取消訴訟を提起すると 共に、執行停止を申し立てた。執行停止の申立てが却下されたことからAが建設を 続けた結果、訴訟係属中に建物が完成し、検査済証が交付された。最高裁判所の判 例によると、この場合、@建築確認の法的効果がどのようなものであるため、A工 事完了がBの訴えの訴訟要件にどのような影響を与え、Bどのような判決が下され ることになるか。40字程度で記述しなさい。 問題45 Aは、Bに対し、Cの代理人であると偽り、Bとの間でCを売主とする売買契約 (以下、「本件契約」という。)を締結した。ところが、CはAの存在を知らなかっ たが、このたびBがA・B間で締結された本件契約に基づいてCに対して履行を求 めてきたので、Cは、Bからその経緯を聞き、はじめてAの存在を知るに至った。 他方、Bは、本件契約の締結時に、AをCの代理人であると信じ、また、そのよう に信じたことについて過失はなかった。Bは、本件契約を取り消さずに、本件契約 に基づいて、Aに対して何らかの請求をしようと考えている。このような状況で、 AがCの代理人であることを証明することができないときに、Bは、Aに対して、 【どのような要件の下で(どのようなことがなかったときにおいて)、どのような請 求をすることができるか。】「Bは、Aに対して、」に続けて、下線部について、40 字程度で記述しなさい(「Bは、Aに対して、」は、40字程度の字数には入らない)。 *問題文中の「下線部」とは【 】内の部分。 問題46 Aの指輪が、Bによって盗まれ、Bから、事情を知らない宝石店Cに売却され た。Dは、宝石店Cからその指輪を50万円で購入してその引渡しを受けたが、D もまたそのような事情について善意であり、かつ無過失であった。盗難の時から1 年6か月後、Aは、盗まれた指輪がDのもとにあることを知り、同指輪をDから取 り戻したいと思っている。この場合、Aは、Dに対し指輪の返還を請求することが できるか否かについて、必要な、または関係する要件に言及して、40字程度で記 述しなさい。 一般知識等 [ 問題47〜問題60は択一式(5肢択一式) ] 問題47 現代日本の利益集団(または、利益団体・圧力団体)に関する次の記述のうち、 妥当でないものはどれか。 1 利益集団は、特定の利益の増進のため、政党や政府・各省庁に働きかけ、政治的 決定に影響力を及ぼそうとする団体である。 2 世論は、常に正しいとは言えないが、世論を政治に反映させることは民主政治の 基本である。世論は、大衆運動、マスメディアなどで示されるが、利益集団の活動 によっては示されない。 3 内閣は、法案を国会に提出するが、その法案は、政党・利益集団と関係省庁間の 利害調整の結果として作成され、内閣法制局の審査を経たものであることが多い。 4 利益集団には、経営者団体や労働団体、医師や農業従事者の団体などがある。例 えば、日本経済団体連合会は、経営者団体の代表的なものである。 5 利益集団は、特定の政党に政治献金や選挙協力をすることで発言権を強めようと することがある。その結果として、利益集団と密接な繋がりのある議員が登場する ことがある。 問題48 戦後日本の外交に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。 1 1951年に日本は、吉田茂首相のもと、いわゆる西側諸国とポーツマス条約を締 結して独立を回復した。同年に、日米間では日米安全保障条約を締結し、その後、 1960年にはその改定がなされた。 2 1956年に日本は、鳩山一郎首相のソ連訪問において、日ソ不可侵平和条約を締 結した。これを契機として、東欧諸国との国交が順次結ばれ、同年には国際連合へ の加盟を果たした。 3 1965年に日本は、大韓民国との間で日韓基本条約を締結した。また、朝鮮民主 主義人民共和国との間の国交は、2002年の小泉純一郎首相の平壌訪問によって回 復した。 4 1971年に日本は、アメリカとの間で沖縄返還協定を結び、翌1972年には沖縄の 復帰を実現した。但し、環太平洋戦略的防衛連携協定により、日本はアメリカ軍基 地の提供を続けている。 5 1972年に日本は、田中角栄首相が中華人民共和国を訪問した際に、日中共同声 明によって、中華人民共和国との国交を正常化した。その後、1978年に日中平和 友好条約を締結した。 問題49 戦後日本の物価の動きに関する次の記述のうち、妥当でないものはどれか。 1 日本では第二次世界大戦直後に年率100%を超えるハイパー・インフレーション が起こり、その後も、「復金インフレ」と呼ばれた激しいインフレーションが続いた。 2 日本の高度成長期には、消費者物価は年率で平均5〜6%の上昇が続いた。これ は、主に中小企業製品や農産物、サービスの価格が上昇したためである。 3 第一次石油危機による原油価格の上昇は、列島改造ブームによる地価高騰と相 俟って、「狂乱物価」と呼ばれる急激な物価上昇を招いた。 4 1980年代後半から、低金利によって余った資金が土地や株式などに投資され、 地価や株価などの資産価格を高騰させて、いわゆる「リフレ経済」を招いた。 5 円高によるアジアNIESからの安価な製品の流入、大型小売店やディスカウン トストアの出現などにより、1990年代以降は、「価格破壊」が起こることもあった。 問題50 ペットに関する次のア〜オの記述のうち、正しいものの組合せはどれか。 ア 犬を新たに飼い始める場合、飼い主は住所地の市区町村に登録をしなくてはなら ず、同一の市区町村に住む知人からすでに登録済みの犬を譲り受けたときにも新規 登録が必要である。 イ 1950年代には多くの市区町村で犬税が導入されていたが、犬税を課す市区町村 の数は次第に減少し、現在では、犬税を課している市区町村は一つもない。 ウ 飼い犬が死亡した場合、人間が死亡した場合と同様の手順を踏むこととなる。飼 い主は、市区町村に死亡届を提出し、埋葬許可証を受け取ったうえで、火葬するこ ととされている。 エ ペットショップの営業時間に関する規制はないが、深夜に犬や猫を展示したり、 顧客に引き渡すことは、認められていない。 オ 業として、ペットの販売などを行う場合、動物取扱事業者としての登録が必要と なるが、飼育施設を持たず、インターネットなどで通信販売を行う場合には、登録 は義務付けられていない。 1 ア・イ 2 ア・ウ 3 イ・エ 4 ウ・オ 5 エ・オ 問題51 就労に関する次のア〜オの記述のうち、妥当なものはいくつあるか。 ア 失業とは、就業の機会が得られていない状態のことを指し、統計的に失業者数 は、労働力人口から就業者・就学者を差し引いた数として定義される。 イ 有効求人倍率とは、職業安定所に登録された有効求人数を有効求職数で割った値 をいい、この値が0.5を上回れば労働供給のほうが多く、反対に0.5を下回れば、 労働需要のほうが多いことを意味する。 ウ ワークシェアリングとは、労働者1人当りの労働時間を減らし、その分で他の労 働者の雇用を維持したり、雇用を増やしたりすることをいう。 エ ニートとは、若年無気力症候群のことをいい、通勤も通学も家事もしていない者 として定義される。 オ 雇止めとは、期間の定めのある雇用契約において、使用者もしくは労働者の希望 により契約が更新されないことをいう。 1 一つ 2 二つ 3 三つ 4 四つ 5 五つ 問題52 肥大化した行政をスリム化することを目的として、政府の多くの機関・業務が、 独立行政法人に移行したが、次のア〜オのうち、独立行政法人通則法による独立行 政法人にあたるものはいくつあるか。 ア JR東日本 イ 日本郵政 ウ 造幣局 エ 国立公文書館 オ 日本銀行 1 一つ 2 二つ 3 三つ 4 四つ 5 五つ 問題53 日本の産業に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。 1 天然ガスや鉄鉱石など、国内の豊富な天然資源を活かした工業生産が盛んであ り、さらなる資源の獲得に向けて、東シナ海などで埋蔵資源の発掘が進められてい る。 2 1970年代以後、政府による景気対策の一環として、公共事業が安定的に実施さ れてきたことから、建設業の事業所数や就業者数は、増加傾向にある。 3 サービス産業の労働生産性は、業種によって大きなばらつきがみられ、中小企業 や個人事業主が多い卸売・小売業、飲食店、宿泊業では相対的に低い水準となって いる。 4 高度成長期以降、工業製品とともに、農業生産物の輸出が伸びており、特に米に ついては、ブランド米を中心に、その多くを海外へ輸出している。 5 漁業生産量では、沿岸漁業による水揚げの低迷を背景に、その5割を養殖に依存 している。 問題54 情報公開制度に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。 1 情報公開制度については、地方自治体の条例制定が先行し、その後、国の法律が 制定された。 2 国の法律の制定順序については、まず、行政機関が対象とされ、その後、独立行 政法人等について別の法律が制定された。 3 地方自治体の情報公開条例は、通例、地方自治の本旨を、国の情報公開法は知る 権利を、それぞれ目的規定に掲げている。 4 行政文書の開示請求権者については、国の場合は何人もとされているが、今日で は、地方自治体の場合にも何人もとするところが多い。 5 開示請求手数料については、国の場合には有料であるが、地方自治体の開示請求 では無料とする場合が多い。 問題55 個人の情報の取扱いに関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。 1 行政機関情報公開法*1では、特定の個人を識別することができなくとも、公に することにより当該個人の権利利益を侵害するおそれがあるような情報が載ってい る行政文書は不開示となりうる。 2 住民基本台帳法は住民の居住関係を公証するものであるので、氏名、性別、生年 月日、住所の基本4情報については、何人でも理由のいかんを問わず閲覧謄写でき る。 3 戸籍法は国民個人の身分関係を公証するという機能を営むものであるので、重婚 などを防ぐために、何人でも戸籍謄本等の交付請求ができるという戸籍の公開原則 を維持している。 4 公文書管理法*2の制定により、外交文書に記載されている個人情報は、文書が 作成されてから30年が経過した時点で一律に公開されることとなった。 5 行政機関個人情報保護法*3の下では、何人も自分の情報の開示を請求すること ができるが、訂正を求めることはできない。 (注)*1 行政機関の保有する情報の公開に関する法律    *2 公文書等の管理に関する法律    *3 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律 問題56 個人情報保護法*において、個人情報取扱事業者が個人データを第三者に提供す る際に、あらかじめ本人の同意を得る必要がある場合はどれか。 1 弁護士会からの照会に応じて個人データを提供する場合 2 交通事故によって意識不明の者の個人情報を病院に伝える場合 3 児童虐待を受けたと思われる児童に関する情報を福祉事務所等に連絡する場合 4 顧客の住所、氏名を自社の取引先に提供する場合 5 医療の安全性向上のために医療事故について国に情報提供する場合 (注)* 個人情報の保護に関する法律 問題57 ディジタル情報に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。 1 既存の状態をアナログ、既存の状態からの変化をディジタルと呼ぶ。情報のディ ジタル化とは、情報が既存の状態から変化する近年の情報技術革新を指す。 2 1ビットで2通り、2ビットで4通り、4ビットで16通りの情報を表すことが できる。8ビットで256通りの情報を表すことができ、これを1バイト(B)と呼 ぶ。 3 大きな情報量を表す単位に、キロバイト(KB)、メガバイト(MB)、ギガバイ ト(GB)などがある。1km2=1,000,000m2と同様に、1KB=1,000,000Bで ある。 4 文字をコンピュータで扱うためには、文字に2進数の文字コードを付ける必要が ある。日本工業規格(JIS)漢字コードで表された1つの漢字の情報量は、1バイ トである。 5 画像をコンピュータで扱うためには、画像を分解して小さな点(ドット)の集ま りに置き換える必要がある。こうした作業を符号化という。 問題58 本文中の空欄に入る文章をア〜エの文を並べ替えて作る場合、順序として適当な ものはどれか。  接続詞は論理的か、というのは難しい質問です。論理学のような客観的な論理に 従っているかという意味では、答えはノーです。もし厳密に論理で決まるのであれ ば、以下のように、論理的に正反対の事柄に両方「しかし」が使えるというのは説明 できません。  ・昨日は徹夜をして、今朝の試験に臨んだ。しかし結果は0点だった。  ・昨日は徹夜をして、今朝の試験に臨んだ。しかし結果は100点だった。  暗黙の了解として、前者の例では「徹夜をするくらい一生懸命準備すればそれなり の点が取れるだろう」があり、後者の例では、「徹夜をするくらい準備が不足してい たのなら(または徹夜明けの睡眠不足の状態で試験を受けたのなら)それなりの点し か取れないだろう」があったと考えられます。このことは、接続詞の選択が客観的な 論理で決まるものではなく、書き手の主観的な論理で決まることを暗示しています。 (中略)  接続詞で問われているのは、命題どうしの関係に内在する論理ではありません。命 題どうしの関係を書き手がどう意識し、読み手がそれをどう理解するのかという解釈 の論理です。  もちろん、言語は、人に通じるものである以上、固有の論理を備えています。  [                                    ]  わかりやすくいうと、文字情報のなかに理解の答えはありません。文字情報は理解 のヒントにすぎず、答えはつねに人間が考えて、頭のなかで出すものだということで す。                    (石黒圭「文章は接続詞で決まる」より) ア じつは、人間が言語を理解するときには、文字から得られる情報だけを機械的に 処理しているのではありません。 イ しかし、その論理は、論理学のような客観的な論理ではなく、二者関係の背後に ある論理をどう読み解くかを示唆する解釈の論理なのです。 ウ 文字から得られる情報を手がかりに、文脈というものを駆使してさまざまな推論 をおこないながら理解しています。 エ 接続詞もまた言語の一部であり、「そして」には「そして」の、「しかし」には 「しかし」の固有の論理があります。 1 ア→イ→エ→ウ 2 ア→ウ→エ→イ 3 イ→ウ→ア→エ 4 エ→ウ→ア→イ 5 エ→イ→ア→ウ 問題59 本文中の空欄 [ア]〜[ウ] に入る言葉の組み合わせとして適当なものはどれ か。  どのように技術は習得されるのであろうか。日本伝統芸能の演者の述懐には、彼ら がどのように基本の動きや身のこなしを習得していったかがしばしば述べられてい る。たとえば歌舞伎役者の場合、基本的に代々の家系によって受け継がれ、幼いころ からその特殊な環境に身を置きながら、伝統を体現していくことが求められていく。 いくら幼い子どもでも、彼らの周りがそうだから、芸事や稽古はみな日常的なものと なる。彼らは、幼い頃から何度も稽古を重ね、身体に身振りを染みこませ、身体に覚 えさせるのだという。  このような [ア] に基づいて得られた身体的な知とは「暗黙知」とか「身体知」と よばれている。自転車に乗るように、スポーツをするように、なかなか言葉では言い 表せないような体に染みついた知識となっている状態だ。一度獲得してしまうと、そ れが当たり前のような状態になる。(中略)  伝統的に歌舞伎の世界では、次世代に伝えるべきことを書いて残すことをしない。 彼らはあえて書かないのではなく、卓越者の演じ方や振る舞いについてはそもそも書 けないのだという。やり方やきまりについては書こうと思えば書けるけれども、卓越 者の [イ] に見られる彼らの気持ちの問題、感性の部分については書きようがない、 というのだ。(中略)  ある歌舞伎役者は、基本的な動きや身のこなしができるようになってはじめて役に なりきることができ、そのような基礎が身につかなければ芸の面白さが見る人たちに 伝わらないのだとも述べている。書き記し、マニュアル化することができるものは、 知識や理解の断片に過ぎない。もちろん、これらがきちんと習得されなければ、その 先にある面白さを伝えることはできない。  そしてそれらの断片の全てがつながったとき、それ以上のものが発揮されるのだろ う。全体は部分の総和ではない。これはゲシュタルト心理学の考え方に詰め込まれて いる。ゲシュタルトというのはドイツ語で(まとまった)形、形態を意味する言葉 だ。まとまりの感じ方は、一つひとつの部分ではなく部分同士の関係による。全体は 部分の総和以上のものである、という言葉は、心理学では使い古された言葉ではある が、面白さや美しさといった芸術のメッセージの伝わり方が、個々の技術や表現の総 和を超えたものであることに [ウ] 性を与えてくれる。            (川畑秀明「脳は美をどう感じるか―アートの脳科学」より)   ア   イ   ウ 1 芸事  表現  蓋然 2 芸事  表情  普遍 3 家系  技術  情緒 4 経験  表情  情緒 5 経験  表現  普遍 問題60 本文中の空欄に入る言葉として適当なものはどれか。  DNAの二重らせん構造を初めて知ったときに誰もが感心するのは、これが親から 子に間違いなく同じものを伝えていく性質をもっているということです。しかし、私 は最近、DNAが生きものの基本物質になったのは、同じものを伝えていくというこ とよりも「                  」ではないかと思うようになりま した。  DNAに関しては、複製とかコピーという言葉が使われますが、現実にはDNAは まったく同じものを作るようにはできていません。(中略)  DNAが次のDNAを作るときには、必ずどこかで間違えます。間違っても、生き ていますよというメッセージが失われないかたちで間違えられるからこそ、三十八億 年もの間続いてきたのです。それは、生きているという表現が多様なかたちを取り得 るからです。もしこれがとても制限されていて、こうなったらもう生きられない、あ れではだめだとなっていたら、こんなに長い間生きものが続くことはできなかったで しょう。生きもののすごいところは、長く長く続いてきたことであり、それはさまざ まなものを皆生きものだ、それぞれ生きられるんだと認める原則を取ったからです。 それを現実にしたのがDNA(ゲノム)です。  もちろん、遺伝子がうまくはたらかなくなって病気に苦しむこともあり、その原因 を調べて治療法を探ることは一人ひとりの生を支える大切な技術です。(中略)  現代社会では糖尿病で悩む患者は多いので、その原因を知り、治療法を開発するこ とは必要ですが、糖尿病の遺伝子があるわけではありません。血糖値が高いという現 象は、糖の代謝全体と関わり合うものですから、それに関わる遺伝子は多数あり、一 つひとつの遺伝子は決して糖尿病のためにあるわけではなく、生きることを支えるた めにあるのです。病気の遺伝子という言い方をしているうちに、体中に病気の遺伝子 があり、それを全部調べ上げて一つひとつに対応しなければ健康に生きられないよう なイメージが生まれてしまうのは、困ったことです。ここには、正常と異常という問 題があります。まず、ゲノム解析をしたことで、本来機能しなかったり、環境によっ てうまくはたらかなかったりする遺伝子が存在することがわかってきました。ゲノム 全体が“正常”と呼べる状態などないということです。ですから、特定の遺伝子につ いてだけ異常と決めつける方向へ進むのは賢明な対応ではありません。DNAは多様 なかたちで生きられるようにできており、それは生きものとしては三十八億年、人類 としては五百万年、現代人としては二十万年という長い時間の中で確立してきたシス テムです。                      (中村桂子「ゲノムが語る生命」より) 1 多くの遺伝子が正常に伝えられるよう、遺伝子相互が複雑に関わり合っていると いうこと 2 わずかずつ間違えながらも、すぐにそれを修復する機能が働き、新しいタイプを 生み出していくこと 3 あえて異常な状態を作り出すことで、より耐性の強い性質に変化していった結果 だということ 4 変化をし、その変化をきちんと次に伝え、変化したものも生きるようにそれを支 えていけること 5 遺伝子自体が、生きものが存在していく上で、必ずしも決定的な働きをしている わけではないということ 問題61 次のア〜オのうち、本文の内容・主旨に合わないものはいくつあるか。  数年前、知人との待ち合わせのためにある文化会館を訪れた。まだ時間があったの で、たまたま展示されていた俳句コンクールの作品を眺めていた。応募数が少なかっ たらしく受賞作品以外のものも展示されていた。受賞作は、まぁよくある感じのもの で特に感銘も受けなかったのだが、何の賞も獲っていない作品の中に心を揺さぶるも のがあった。  蠅叩き 鳩吹山の クマンバチ  これを見た瞬間、7月の鳩吹山の光景が脳内に甦った。初夏はクマバチの繁殖期で、 雄の蜂が求愛のために滞空している。動くものを雌だと思って猛烈に飛びかかる。登 山道に沿って5m間隔で遥か先までホバリングしているクマバチを見て凄まじい絶望感 を味わったものだ。明らかに雌の蜂とサイズが違う人間にも容赦なく飛びかかってく る。どうすれば良いのか分からず途方に暮れたものだが、近づいてくるだけで襲って はこないとわかり、無事に登頂することができた。あの時、蠅叩きを持っていたらど れほど素晴らしいことになっていただろう。  背筋のバネを全力で活かし、あり得ないほど反り返ってフルパワーでクマバチを叩 く。ヒットの瞬間に全身全霊、人生最大の力を込める。地面に叩きつけてもらえると 思うなよ。ヒットの瞬間に粉砕して雲散霧消だ。蜂の汁を全身に浴びながら恍惚の表 情を浮かべる。まだ山頂まで20匹はいる。もうどうなったっていい。全身の筋肉や骨 がズタズタになっても構わない。人間の限界を超えたパワーで叩く。けたたましく爆 笑しながらひたすら叩く。生まれてきたことを後悔しながら死ね。そんな光景を思い 浮かべながらしばらくその作品の前に立ちつくしていた。  何故この句が受賞できなかったのだろう。それは、そこに込められたものが体験した 者にしか分からないものだからだろう。7月に鳩吹山に登ったことがない審査員に分か るはずがない。知っている者だけの優越感。そこには蜂に対する敗北感や屈辱も含ま れているのかもしれない。そういうものを感じ取れるかどうかはこれまでの人生経験 にかかっている。体験したことがない人にも想像できるような陳腐な俳句は面白くな い。密かに作者と感動を共有できたような気持ちになり、私は文化会館を後にした。知 人との待ち合わせのことはすっかり忘れてしまっていたが、もうどうでも良かった。近 所のホームセンターへ行き、蠅叩きの握り心地やしなり具合を念入りに確かめた。                         (犬土偶「蠅叩きの感動」より) ア 繁殖期のクマバチは人を襲うので、登山道で出会ったら諦めて下山すべきである イ 飛びかかってくるクマバチを叩くのはあまりにも簡単で面白みに欠ける ウ 実体験がなくても全てのことは想像で補うことができる エ 叩いた体験もないくせに妄想で感動しすぎだろうと言われて知人と絶交した オ ウンコ我慢している時だったら蠅叩きを持ってクマバチと遭遇しても台無しである 1 一つ 2 二つ 3 三つ 4 四つ 5 五つ